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ダイバーシティ工場への挑戦 ポッカサッポロが「全ラインの生産を止めてまで」社員総出のイベントを行うわけ(2/3 ページ)

» 2019年11月26日 08時00分 公開
[小山健治ITmedia]

外国人スタッフを受け入れてみて分かったこと

 2019年11月現在、群馬工場で就労している外国人は、中国人出身者が1人、東南アジア出身者が3人、南米出身者が11人。約170人という群馬工場の総従業員数からすると、決して高い割合ではないが、「まだまだ人手は足りておらず、これからも積極的に採用したい」と、近藤氏はさらなる採用強化への意欲を示している。

 こうした状況から、外国人スタッフが重要な戦力になっていることは間違いないが、最初から受け入れがスムーズに進んだわけではなかった。

 日本では食品製造に厳しい品質管理が求められている半面、文化の違いからほとんどの外国人スタッフは、こうした取り組みへの理解が浅く、「基本的な意識をすり合わせるために相当苦労しました」と近藤氏は語る。

 入職時には丸1日かけて座学を行い、工場の中には各国語版の食品安全や衛生教育のマニュアルを掲示し、品質の意識をすり合わせる。

 また、製造ラインに配置してからも、意識のすり合わせは続く。日本人スタッフであれば通じる、マニュアル外の“臨機応変”な対応を異なる文化を持つ外国人スタッフに期待するのは難しい。日本人スタッフと連携するため、なぜそれが重要なのか、都度マンツーマンで教えられる体制を整えた。

Photo 外国人スタッフのために作成したマニュアル

工場を止めてまで「全従業員が一堂に会すること」にこだわった理由

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 「コミュニケーションの障害となるのは言葉だけ」と近藤氏は語るが、具体的に群馬工場ではどのような取り組みによって、日本人スタッフと外国人スタッフの間の連携に関する課題を克服していったのだろうか。

 近藤氏は、「出身国に関係なく、全ての従業員が仲良くなるための工夫を数多く実践しています」と言う。

 例えば誕生日を迎えた全従業員に対し、プレゼントを贈る。標語を工場全体から募集するコンクールでは、外国人スタッフにも毎回、最優秀賞や優秀賞などの賞を設けるなど、コミュニケーションを深めるためのきっかけをつくっている。

 普段思っていることをなかなか口に出せず、フラストレーションを抱えているケースもあるため、春と秋の2回、全ての従業員を対象に1on1の面談も行っている。「貴重な人材の離職を防ぐためにも、ひとり一人の顔を見て、話を聞くことはとても大切なこと」というのが近藤氏の信念だ。

 さらに、年に4回ほど工場を止めて、全ての従業員を集めたイベントやグループワークを行っているという。

 「シフトや部署の壁を取り払い、普段、顔を合わせない人や、話をしたことのない人同士が一緒に話したり、ワークショップをしたりすることで、部署や出身国など、人それぞれに異なる多様な価値観を共有できないかと考えたのがきっかけです。これまでは通路ですれ違っても軽い会釈しかしなかったのが、イベントの後には声を出してあいさつするようになり、部署や担当業務が違っても、お互いに進んで協力しあうようになる――。そんな風通しの良い環境をつくることを目指しました」と、近藤氏は狙いを説明する。

 「工場を止める」という判断がいかに“常識外”のことなのかは、製造業に携わっている方にはよく分かってもらえると思う。丸1日工場を止めるとなれば、実質的には前日夜から翌日朝までの足かけ3日間にわたって生産がストップしてしまう。これを年4回も行うのだからトータル12日間の損失だ。

 それでも近藤氏は、全ての従業員が一堂に会する機会にこだわった。「生産量を上げることが、工場に課せられた使命の1つであることは言うまでもありません。しかし、その使命を果たしているのはロボットではなく、ほかならない人間です。人の気持ちの変化と生産数を定量比較することはできませんが、『必ず何かしらの効果を生み出すはずです』と訴え、本社を説得しました」(近藤氏)

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