「コンビニの書店強化」が大コケすると思う、これだけの理由スピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2019年11月26日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

知的好奇心を刺激する心地よい空間

 出版不況というのは、デジタル化の流れの中で、多かれ少なかれどどこの国でも起きている。「Amazonのせいだ」とか「ネットが悪い」という恨み言もほぼ万国共通だ。

 それと同じく、「生き残る書店」も世界的にはほぼ同じ傾向がある。それは、ただ本を売る場所ではなく、「本と出会う空間を提供している」ことだ。例えば、英国では書籍の国内市場の40%をAmazonが占める中で、25%維持をする書店チェーン大手「ウォーターストーンズ」もその一つだ。

 日本同様にバタバタと書店が潰れる中で、なぜこのチェーンが生き残っているのかというと、セブンも真っ青のマーケティング、商品開発力で、読者のハートをガッチリ……なんてことでは全くなく、「雰囲気のいい本屋」をつくったことだ。

 経営者ジェームズ・ドーントに取材をしたニューヨークタイムズの記事を翻訳したクーリエジャポンを引用させていただこう。

 『一方ドーントは、「最も重要なのは書店に来る喜びを顧客に提供することで、本を売るのはその次」という販売スタイルで持ちこたえてきた。ドーントによれば、雰囲気がよくて何度も来たくなる書店が与えてくれるのは、本を買う楽しみだけではない。買った本そのものが、すばらしい経験を与えてくれるのだ。それは、オンラインでの書籍購入では決して味わえない喜びだとドーントは言う』(2019年9月19日)

 喜びを提供することが目的で売るのはその次――。もしセブンのバイヤー会議でこんなことを口走ったら、間違いなく出入り禁止になるような問題発言だが、実はこの書店経営のカリスマの主張を裏付けるデータもあるのだ。

 18年9月25日にリリースされた、株式会社マクロミルの本や書店に関する利用の意識調査によれば、こんな結果が出ている。

 『書店に足を運ぶ理由を尋ねると、上位5位は「紙の書籍を買うため」(58%)、「情報収集のため」(45%)、「時間つぶし」(39%)、「試し読みをするため」(33%)、「書店の雰囲気が好きだから」(27%)でした。特に若い世代では、時間つぶしや雰囲気を楽しむなど“購買や検討に直接的には結びつかないこと”が高い傾向にあります』

 書店というのは、本を売る場である前に、実は顧客に対して、情報収集、時間つぶし、雰囲気を楽しむ、という「知的好奇心を刺激する心地よい空間」なのだ。もっと言ってしまうと、本や雑誌を扱う小売業だというのも大きな誤解で、温泉宿などのホスピタリティビジネスのほうが近いかもしれない。

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