では、翻って日本の書店はどうか。カリスマ書店員の楽しげなPOPやディスプレイに気を使う書店も最近は増えてきたが、ほとんどの書店は、図書館とそんなに変わらないカテゴリーごとに分類された棚がズラリと並び、その前には取次からじゃんじゃん配送される新刊が平積みされていく、というのが定番のレイアウトだ。消費者のもとに次から次へとモノを届けるという流通の思想が前面に出るあまり、「個性」がないのだ。
もちろん、こういう書店でも本に囲まれていれば幸せという「本好き」からは支持されるだろう。しかし、そうではない人間からすれば、欲しい本、必要な情報を探すだけの場所で、スーパーの野菜売り場となんら変わらない。
実はこれこそが、日本の書店から客が離れている理由の一つだ。
書店が取次の配送を受けて「本を並べる空間」にしかなっていないので、「本好き」ではない人が時間つぶしに訪れて、フラフラするうちにこれまで読んだこともないような本と運命的に出会うなんて「体験」もないのだ。
つまり、日本の書店が生き残るには、「本を並べる空間」から、「知的好奇心を刺激する心地よい空間」へと変わっていかなくてはいけないのである。
そんな中で、ゴリゴリのマーケティングを駆使するコンビニによる、本と読者の結びつけが強化されたら、「知的好奇心を刺激する心地よい空間」なんてヌルい話はどこかにスコーンと飛んでいってしまうのは間違いない。
つまり、コンビニで本がじゃんじゃん売れるのは表面的には「読者ニーズを掘り起こした!」という感じに見えるが、実のところは「知的好奇心を刺激する心地よい空間」という書店が生き残っていく道をつぶすことになってしまうのだ。
日本の雑誌ビジネス、ひいては出版ビジネスは、コンビニのおかげで成長をしたと言ってもいい。それと同じく我々はコンビニにあらゆるものをのっけてきた。ATM、公共料金、宅急便、トイレ、チケット、宅配便の受け取り、高齢者の見守り、緊急時の避難場所……そして今度は読者ニーズを掘り起こせ、なんて無理難題をふっかけられている。
口で言うのはラクだが、やらされる現場からすればたまったものではない。ただでさえ、サービスや商品の拡大で、仕事量が増えているところに、本屋までやらなくてはいけない。全業種の中でも際立って低い賃金であるにもかかわらずだ。
こんな無茶な話はない。ブラック企業でボロボロになっている社員に、副業をしろと命じるくらい無茶である。
我々はコンビニに過度な期待をかけすぎだ。いい加減そろそろ、さまざまな重責からコンビニを「解放」してあげるべきではないのか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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