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それでも“インフルエンザ出社”がなくならないワケ くだらない「武勇伝」づくりはもうやめよう「迷惑」と伝える勇気(3/3 ページ)

» 2020年01月17日 07時00分 公開
[横山信弘ITmedia]
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インフル出社はくだらない「武勇伝」探し

 いったい自分は何をしたいのだろう。自分は何を成すためにこの世に生まれたのだろう……。

 このように、「自分はいったい何者なのか」を探す旅のことを「自分探しの旅」と呼ぶ。どちらかというと人生に迷いを感じる若者が、このような旅に出かけたくなるようだ。一方、私のような世代(50代)が出かけたがるのは、「武勇伝探しの旅」である。例えば、

「俺が20代のころは、胃に大きな穴開けても、徹夜して仕事したもんだよ」や「インフルエンザにかかっても、お客さまの接待で朝まで付き合ったなあ」とか。あるいは「東海豪雨のときだって、膝上まで水につかった状態でお客さまのところへ営業に行ったよ」というような「武勇伝」だ。

 そして、こんな話が飲み会の席で出てくると、当時のことを知っている部長や課長たちは、こぞって「あのときは大変でしたなァ」「もう二度とあんな思いはしたくありませんわなァ」みたいなことを言って、「わっはっはっは」と盛り上がる。ところが、散々盛り上がったあと、武勇伝ネタが尽きてくるころに出てくるのが、決まって寂しげな愚痴だ。

「それに比べて、今の若いもんときたら」

「先日も、インフルエンザにかかったとか言って、5日間も休んでましたよ」

「誰が?」

「去年入社したA君ですよ」

「あいつか。最近の若いもんは、こらえ性がない。たかがインフルエンザぐらいで」

と、こうなる。

 時代錯誤感がすさまじいが、実際にこのような感覚の中間管理職は「絶滅危惧種」ではない。それどころか、まだまだたくさん存在する。だから、20代の若い人ならともかく、まだこのような感覚を継承している30代、40代ぐらいの中堅なら、武勇伝探しのために「インフルエンザ出社」も辞さないだろう。

インフル出社は「武勇伝」のため?(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 インフルエンザでなくても、37、8度ぐらいの熱ならば頑張って出社する。「こじらせるから、家で寝てなさい」と言っても、聞かない。「武勇伝大好き世代」の上司が、

「38度の熱を出しても、出社してくる。あいつはたいしたもんだ!」

と評価しようものなら、ますます図に乗るだろう。周囲のこのような視線がある限り、自分も武勇伝の1つや2つは欲しいという、くだらない「武勇伝探し」はなくならない。

周囲はどのように言うべきか?

 私は19年10月、超大型台風19号が関東地方に直撃する日の朝、次のような記事を書いて「出社自粛」を呼びかけた。

超大型台風の襲来、JRの計画運休、それでも社員を出社させるべきか?(Yahoo! ニュース)

 なぜか。記事に書いた通り、不要不急の社員が無理して出社すると、「迷惑」だからだ。警察や医療従事者、自治体に勤める公務員など、どんなに非常事態でも出社すべき方々が、スムーズに移動できなくなる。

無理して出社すれば社会の「迷惑」に(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 一般企業が非常時の出社を個人任せにしておくと、「困難な状況でも会社に尽くす自分」という姿を演じたくて、周囲の迷惑をかえりみずに出社してしまう。だから自粛を呼びかけた。

 インフルエンザ出社もそうだ。決して、周りは「こんなにすごい台風なのに出社するなんてエラい!」という印象を抱くべきではない。もちろん、上司も「台風といっても、この程度なら出社しろよ」と命令してはならない。

 流行を少しで和らげ、社会的責任を果たすためには、本人任せにせず、会社が断固とした態度でメッセージを出すことだ。部下に対しては、

「君が出社するとオフィスにおける感染リスクが高まり、会社が迷惑だ」

などと、ハッキリ言うべきなのである。

 多くの場合、当人は、「よかれ」と思って会社に行こうと思っている。だから、なかなか言いづらい気持ちは分かる。しかし時代は変わったのだ。心を鬼にして、言いきらなければならない。「迷惑なんだ」と。

著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

 

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