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中国2大ネット大手「テンセント」 SNSやゲームに続いて狙う新たな“鉱脈”とは(3/3 ページ)

» 2020年01月31日 09時00分 公開
[山谷剛史ITmedia]
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アリババとテンセントの競合事情

 こうしてみると、ECやフィンテックに強いアリババとテンセントではカバージャンルが異なっているように思えるが、実はぶつかっている部分も多い。キャッシュレス決済で「支付宝(アリペイ)」と「WeChatPay(微信支付)」が競合しているだけではなく、投資やクラウド事業でもぶつかっている。

 まずは投資から見ていこう。19年のテンセントの投資金額は495億円(約7400億円)。多いように見えるが、18年の投資額(727億元/約1兆900億円)と比べるとだいぶ控えめだ。大型のものでは、バイトダンスの「TikTok(抖音)」のライバル「Kuai(快手)」、ユニバーサルミュージック、インドネシアの配車サービス「Go-Jek」への投資、スイスのゲーム開発企業「Fatshark」の買収などが挙げられる。

 投資先の業種は、娯楽メディア(15%)、金融(12%)、ゲーム(6%)、医療健康(6%)、自動車・交通(6%)、AI(6%)、EC(5%)、教育・トレーニング(5%)など幅広いが、一番は企業向けサービス(21%)だ。これはアリババも同様で、企業向けサービスに最も投資している。

 また、売上が大きく伸びたクラウド事業でも、テンセントはアリババは競合関係にある。19年第3四半期のテンセントのクライド事業の売上は、母数は他事業と比べると低いものの、前年同期比で約8割増。一方、ライバルであるアリババも同四半期に64%増加している。

photo テンセントのクラウドサービスの例(同社が公開している資料より)

 調査会社・IDCのパブリッククラウドレポート「中国公有雲服務市場(2019上半年)跟踪」によれば、19年上半期の中国のクラウドサービス市場規模(IaaS/PaaS/SaaS)は、54億2000万ドル。シェア1位はアリババで、2位がテンセント、その後チャイナテレコム(中国電信)、Amazon AWS、ファーウェイと続き、この5社で75.3%を占める。中でもテンセントの伸びが著しいという。

 テンセントはクラウド事業で教育業、金融業、行政サービス、小売業などの顧客を増やしているという。目立った実績としては、WeChatや微信小程序を行政や企業が利用し、住民や観光客向けのサービスなどを提供できるスマートシティブランド「WeCity未来城市」を湖南省長沙市、湖北省武漢市、広東省江門市に導入したことが挙げられる。

 また、雲南省には観光地の電子チケットをブロックチェーンを活用して一元化する「一部手機遊雲南」を提供したり、江蘇省蘇州市張家港市農商銀行の分散データベースシステムをテンセントクラウドに移転したりといった実績もある。

 おそらくテンセントには、5Gが普及しようとする中で、今までのコンシューマー向けのネットサービスから、ビッグデータやAIやクラウドなどを活用したビジネス向けネットサービスを強化しようという狙いがあるのだろう。中国全体でも、5G関連のスタートアップに集中して投資する傾向がある。

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 従来は消費者の目にとまりやすいコンシューマー向けのさまざまなスタートアップが投資を受けていたが、これからは工場・医療現場・オフィス向けに、IoT・ビッグデータ・クラウド・AIを活用したビジネスをスマート化するSaaSへ各社は特に注力していくだろう。

 これまでコンシューマー向けに寄っていたテンセントも例外ではなく、この流れにのってクラウド事業を強化するはずだ。消費者からすれば、同社を代表してきたSNSやコンテンツ、ゲームなどの事業に大きな変化が見られず、地味な成長をするようにみえるかもしれない。

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