ただ、これもケースバイケースだ。なぜなら他の会社では作れないパーツを作っていた場合、取引自体は問題だとはいえない。利益相反ではあっても直ちに違法とはいえない状況があった場合にはどうすればいいか。答えは簡単で株主が判断すればいいということになる。
株主に情報を開示して、このパーツ会社はゴーン氏の経営する会社で利益相反が発生するが、他の会社では作れないパーツであるため妥当な水準でしっかり価格を交渉した上で取引をします、と有価証券報告書で明示すればいい。これはコーポーレートガバナンスコード(企業統治に関するルール)で定められている。
コーポレートガバナンス・コードの大きな特徴の一つは「順守か説明か(comply or explain)」と呼ばれるソフトローであることです。全ての原則に対する順守義務はなく、なぜ順守しないかを説明すればよい、というものです。杓子定規な捉え方ではなく、経営者が自らの経営内容を投資家に分かりやすく説明することが不可欠です。
野村総合研究所 コーポ―レートガバナンス・コード 用語解説ページ より』
コンプライ・オア・エクスプレイン、順守か説明か、とあるように、ガバナンスの観点から利益相反取引はしない方がいいが、もしするのであればキッチリと株主等に説明するように、と定められている。当然、違法行為をしていいなどという話ではないが、ある程度の裁量が認められていることになる。つまりは経営判断だ。
2つのケースは知人が取引相手の上に自身の判断で支払いをしたため、余計に誤解を生じさせた状況であることは間違いない。しかし、それが直ちに違法といえるかどうか? ということだ。経営判断の観点からこれが最善なのであれば、仮にこの取引でゴーン氏が利益を得ていたとしても、株主に判断をしてもらえればいいというケースも有り得るからだ。
報酬5億円でゴーンの暴走を放置した西川前社長の責任(中編)
メディアでは一斉にゴーン批判の嵐が巻き起こったが、仮に暴走していたのであればそれをとめる役目を負うのは役員であり、その最高責任者は日産の代表取締役社長兼CEOの西川氏にほかならない。ゴーン氏が犯罪を行って逮捕・起訴されたのであれば、西川氏もセットで逮捕されるべきで、西川氏が逮捕されないのであればゴーン氏の逮捕もあり得ないはずだ。
ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 後編
ゴーン氏逮捕については、センセーショナルな事件であったことや、私的流用や公私混同の話がゴシップネタとして面白おかしく報じられたことから、ゴーン氏一人が注目を集める格好となった。しかし企業としての責任にフォーカスすると、どう見えるだろうか?
ゴーン氏が「悪者」で西川社長が「男らしい」というおかしな風潮 前編
ゴーン氏逮捕の真実は今後明らかにされていくだろうが、私的流用が多々あったことは間違いなさそうだ。しかし、そのような振る舞いをとめることができなかった役員にも責任がある。西川氏らほかの役員の責任はどう捉えたらいいのだろうか?
「ほら、日本ってめちゃくちゃでしょ」 ゴーン氏の逆襲をナメてはいけない
カルロス・ゴーン氏が、会見を開く予定だ。「大丈夫でしょ。悪いのは彼なんだし」「すぐに逮捕して、日本に戻せ」といった声が聞こえてきそうが、大きな声をあげればあげるほど、日本にダメージを及ぼすリスクがあるのだ。どういうことかというと……。
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