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日本社会から「単身赴任」がなくならない、根本的な理由スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2020年02月11日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「転勤」は、役人の出世コース

 そこに加えて、筆者が「転勤」や「単身赴任」という制度が日本でなくらないと考える最大の理由は、これが日本人にとって宗教に対する「信仰」のようなものになっているからだ。

 「おいおい、それはいくら何でも大げさだろ」と思う人も多いことだろう。一般的に、日本の転勤制度は、高度経済成長期に確立されたと考えられている。戦後にできたシステムなんだから、「信仰」ほどじゃないだろというわけだ。

 実際、「内閣府 規制改革推進会議 保育 雇用ワーキンググループ」の中で、「ダイバーシティ経営から見る転勤制度の問題点と今後の方向性」という三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成の資料にも、転勤制度は高度経済成長期にともなう日本型雇用確立の流れで定着したという趣旨の説明がある。

 要するに、新卒一括採用、終身雇用、年功序列、企業別組合などのシステムをうまくまわしていくために、転勤という制度が普及していったというわけだ。

 もちろん、聡明な人たちがおっしゃることなのだから事実なのだろう。が、歴史を振り返れば、そうとも言い難い側面も浮かび上がる。分かりやすいのが、明治時代の新聞だ。

 1875年3月3日の『読売新聞』には「東京へ転勤する役人の妾、別れ話を苦に首吊り自殺/青森県」、1886年8月25日には「遠地へ単身赴任し戯れに娼妓と夫婦約束、帰郷後約束履行を迫られ困惑/東京」という「転勤族」の三面記事的トラブルがよく報じられているのだ。

 なぜかというと、いつの時代も庶民が好むエリートのスキャンダルだったからだ。このことからも分かるように、近代日本で「転勤」はエリートの象徴だった。ちなみに、これは現代もそれほど変わっていない。県警本部長、地方検事、地方裁判所の裁判官、県の幹部職員など、その地域の権力者が、ほぼ例外なく「中央からの転勤族」で占められていることが分かりやすいだろう。

 そして、この役人特有のキャリアパスを民間企業が続々と導入し始める。急速な近代化が国策として進められる中で、民間企業にとって、中央のエリートなど役人は良好な関係を築かなければいけない存在であることは言うまでもない。いい関係になるのは「仲間」になるのが最もてっとり早い。つまり、同じ価値観、同じ働き方、同じキャリアパスを共有すればいいのだ。

 その最たる例が、新聞記者だ。

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