が、令和日本の環境を見ても分かるとおり、この「昭和の働き方改革」は結局頓挫してしまう。その理由は、84年に日本生産性本部メンタル・ヘルス研究室が実施した「単身赴任者実態調査」がすべて物語っている。
この調査では、「出世のためなら転勤もやむを得ない」と答えた人は62%、「会社のためならどこへでも赴任する」と答えた人も67.6%、さらには「会社に勤めているからには転勤、異動は当然」と回答した人が9割強にものぼったのだ。
つまり、「転勤は時代遅れ」「単身赴任を強要するような会社はおかしい」という声が今日にいたるまでブレイクせず、マイノリティーに甘んじてきたのは、日本社会全体が「会社からの転勤命令は絶対服従すべし」という信仰のような思想に支配されていたからなのだ。
「いやいや、それは時代だって。高度経済成長期は”会社人間”にならざるを得なかったんだよ」と反論する方も多いだろうが、「転勤命令」に対する思想は30年前も現代もほとんど変わっていない。
2017年10月、独立行政法人の労働政策研究・研修機構が発表した「企業の転勤の実態に関する調査」の中で、「転勤は社命であるから、転勤命令に従うのは当然」という質問に対して「そう思う」と回答したのは79.5%、ほぼ8割にのぼったのだ。
つまり、高度経済成長期だ、バブルだ、失われた20年だ、といろいろな「時代背景」を経て、我々日本人の労働観も変化してきたように錯覚をしているが、実は「会社からの転勤命令は絶対服従すべし」という感覚は30年間ビタッと固定化されて変わっていないのだ。
問題の本質はここにある。我々は20年や30年あれば社会ムードがガラリと変化するという思い込みがあるので、令和の働き方は、昭和の働き方から劇的に変わっていると信じて疑わない。
しかし、30年程度ではそこで生きているメンツは変わらない。同じ人間が同じようなポジションに居座り、同じような仕事をしている。日本人の労働観はそれほど変わっていないのだ。ということは、30年前に失敗した「働き方改革」のようなことを現代で繰り返しても、同じように失敗する可能性が高いということでもあるのだ。
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