このような歴史を振り返ると、筆者が「日本人にとって、転勤は信仰のようなものだ」と言った理由がなんとなく分かっていただけるのではないか。
我々は祖父母の世代、さらにその祖父母の世代から、「転勤=出世のためには当たり前に受け入れるべきもの」という思想が刷り込まれている。組織から命じられて単身赴任をするのも、家族と離れて滅私奉公するのも日本人にとっては「当たり前」である。
この「当たり前」を否定することは、先祖を否定するようなものなので、なかなか難しい。この強烈な信仰がある限り、「時代遅れなのでやめてほしい」という声が上がっても、なかなか社会には浸透しないのだ。
日本から高飛びして自由の身になったカルロス・ゴーン氏が、日本の司法制度は北朝鮮や中国、旧ソ連時代のロシアと同等だと激しく攻撃している。当然、日本政府も、ほとんどの日本人も「日本の司法制度はちゃんとしている」「犯罪者の苦しい言い逃れだ」と怒り心頭で聞く耳を持たない。
が、ゴーンがクロかシロかはまったく別の次元で、この指摘は正しい。以前から国際社会で、日本の人質司法は悪名高く、国連の拷問禁止委員会で、「日本は自白に頼りすぎではないか。これは中世の名残だ」なんて苦言が呈されたこともあるのだ。
我々はこういう批判が大嫌いだ。日本には日本のやり方がある。海外のやり方が必ずしも正しいとは限らない、などさまざまな屁理屈をつけては、耳の痛い話を知らんぷりしたきた。
常軌を超えた長時間労働、陰湿なパワハラ、子どもへの体罰、部活動での根性指導など、明治時代から引きずるような社会問題を日本社会がなかなか克服できないのは、こういう「批判を受け入れない頑固さ」も関係しているのではないか。
望まない転勤や単身赴任をなくそうということで、どんなに企業側がさまざまな「改革」をしても、日本には日本の働き方があるのだ、という根強い「信仰」がある限りうまくいくわけがない。
まずは我々の労働観、人権意識は中世で止まっているという厳しい現実を受け入れる。それをやらずに「働き方改革」を掲げても、これまで日本社会が失敗してきた数多の「改革」と同じ結末をたどるだけではないのか。
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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