リニアを阻む「水問題」 専門家の指摘で分かった“静岡県のもっともらしいウソ”検証・リニア静岡問題(2/2 ページ)

» 2020年02月14日 08時00分 公開
[河崎貴一ITmedia]
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「一滴」という言葉はナンセンス

 川勝平太知事は、リニア中央新幹線の南アルプストンネル(静岡工区)で発生した湧水について、「一滴たりとも渡さない」という姿勢を崩さない。

 それに対してJR東海は、「湧水を全量戻す」と表明している。その対策を具体的に説明すると、静岡工区「8.9km(キロ)」は、山梨県側から静岡県内に入るとトンネルは上り勾配になり、最高地点(標高約1200メートル)から先約2キロ弱は下り勾配になる。静岡県内で発生した湧水は、長野県境からポンプアップして、中間地点の西俣地区から導水路トンネルを経由して大井川に戻す。また、山梨県境にはプールに湧水をためて、こちらもポンプアップして西俣地区から大井川に戻す、としている。

 これが、湧水に対処する現実的な方法であるように思える。

photo 静岡・山梨県の県境、静岡・長野県の県境に釜場(プール)を作り、トンネルで自然落下してきた水をため、ポンプアップして導水路トンネルに流すので、トンネルから湧き出た水は大井川へ流すことになるとJR東海は説明する(静岡県のWebサイトより)

 それでも、川勝知事は、静岡県内で発生した水は県の資源であるかのように、「一滴も漏らさない科学的根拠」をJR東海に求めてきた。

 しかし、トンネル内の湧水は、本当に静岡県の資源なのだろうか。

 これについても、山田教授は異論を唱える。

 「リニア中央新幹線の問題をきっかけに、私は、山梨県と静岡県との境の地形について調べました。表面を見ると、南アルプスの稜線が県境になっています。川勝知事は、静岡県内に降った雨や雪が真下にしみ込んで地下水となり、その地下水がトンネルの傾斜に沿って、山梨県側に流れてしまうと心配しているのだと推測します。

 ところが、あの辺りの地層は、山梨県側から斜めに静岡県側に入っています。山梨県側に降った雨や雪が、県境を越えて、静岡県側に地下水として入っているところなのです。地下水の流れというのは複雑です。そして、その水の動きというものも地表の形からだけで一概に語ることはできません。

 『一滴』という言葉を本当に使われているのだとすると、それは科学的にも不可能であり、ナンセンスです。双方の県が良いとこ取りをできるような方法を考えていくことを、県民も国民も期待しているのではないでしょうか。

 また、地層が斜めに入っているところとしては、神奈川県と静岡県の境も同様だと思います。神奈川県の山間部に降った雨の多くは、地下水として静岡県側に入っているだろうと推測されます」

 山田教授は、「トンネル工事で発生するわずかな湧水よりも、もっと心配しなければならないものがある」と警鐘を鳴らす。

 「地球温暖化の計算をしてみると、台風の発生個数は減りますが、逆に、1個あたりの台風の勢力は強くなる傾向が見えてきました。そうすると、台風がもたらす集中豪雨による洪水と、河川の枯渇が周期的に発生するようになるかもしれません。河川の水量は、短期的には増えますが、年間を通しての水量は、減少するでしょう。

 さらに、梅雨のようにシトシトと降る雨は地下水として浸透しますが、瞬間的な集中豪雨は地表を流れて川に入ってしまいますから、地下水には浸透しにくくなります。リニアのトンネル工事による大井川の水量は大きく変わらないと考えられますが、地球温暖化によって大井川の水量が減ることは避けられません。

 静岡県だけではなく、日本中の河川において、将来を見越した渇水対策を始める必要があります。これが将来の河川がもつ最大の課題であり、優先して検討すべき事項です」

 大井川に渇水が起きれば、田代ダムから発電用に供給されている「毎秒4.99t」の水が維持できなくなるかもしれない。

 地球温暖化を少しでも遅らせるために、飛行機よりも鉄道などの公共交通を利用するという環境愛好家が欧米には増えている。川勝知事が、富士山静岡空港の利用客を増加させたいために、東海道新幹線の新駅建設にこだわり、飛行機よりも優れた環境性能を有するリニア中央新幹線を“妨害”しているとしたら、将来、川勝知事は環境愛好家から(スウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさんが使った「飛行機に乗るのが恥ずかしい」という意味の)「飛び恥」と呼ばれるかもしれない。

 これまで、他県知事や有識者をはじめ、多方面から静岡県への批判がなされてきた。川勝知事、難波喬司副知事が地元メディアを使って県民を煽(あお)り、厚生労働省や経済産業省なども巻き込もうとするなど、関係組織や論点を意図的に増やして問題を複雑化させてきた。こうした手法を使った主張を誰もがうのみにするわけではない。川勝知事の主張を冷めた目で見る人も増えた。静岡県はもう少し誠実にこの問題に向き合うべきだ。

著者プロフィール

河崎貴一(かわさき たかかず)

サイエンスライター、ジャーナリスト。日本文藝家協会、日本ペンクラブ会員。科学、医学、歴史、ネット、PC、食のルポルタージュを多く執筆。著書に『インターネット犯罪』『日本のすごい食材』(ともに文春新書)、パソコン・ガイドブック『とことん使いこなそう!』シリーズほか多数。


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