それが、「3年以内離職率」です。厚生労働省が発表している「新規学卒者の離職状況」によると、2016年(平成28年)に大卒で就職した人の3年以内離職率は32.0%。過去のデータをみても、おおむね30%前後で変わっていません。
このデータからは、新卒向け「人材サービス」のバリエーションは増えているものの、必ずしも学生と企業とのマッチング精度が高まっているわけでもなさそうです。もちろん、離職は必ずしもネガティブな理由ばかりとは限りませんが、少なくとも統計を見る限り、「3年で30%」という数字はおよそ30年にわたって変化していません。この事実は、新卒が行う就活の“体質”がずっと変わっていないことを表しているように思います。
本来「需給調整」とは、需要側と供給側双方のニーズがすり合わされ、互いに合意することで成立するものです。つまり、需要側の“何が欲しいか”と供給側の“何ができるか”が不明確だと需給は適切に調整されないということです。
ほとんどの場合、労働力の供給側である学生は、自分は何ができるのかがつかめていません。そもそも何がしたいのかさえ明確ではない状態で就活することも多いでしょう。一方、需要側である企業も、新卒層という“年代”に対する需要はあるものの、即戦力として技能や経験を具体的に求めるわけではなく、なかなか明確に定めづらい、「ゼネラリスト」として育てるための素養を重視していることが多いように見受けられます。
学生側に、大学を卒業するまでに自分に何ができるかを明確にすることを求めるのは酷なことです。学生の本分は学業だからです。それなのに、十分な実務経験を積んでから就活しようとすると、どうしても無理が生じます。学校教育と就職との「つなぎ目」をどう設計し直すか。学校と経済界と政府とで協議していますが、根本的な解決策を出すことは簡単ではありません。この点が改善されない限り、どれだけ「人材サービス」のバリエーションが増えたとしても、「3年で30%」という離職率は変わらない可能性があります。
しかし、近年はこれまでの人事制度を見直し、新卒にも技能を求め、即戦力社員として高額報酬を支払うような動きが出てきています。学校教育においても、大学や高校だけでなく、義務教育課程からキャリア教育に取り組むようになってきました。企業が大学運営に携わり、技術者養成を目的とした教育カリキュラムを提供する取り組みなども始まっています。このような動きが広がっていけば、状況は少しずつ変わっていくかもしれません。
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