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新卒向けサービスが多様化してもなぜ、「3年以内離職率」はずっと3割なのか連載・「人材サービス」が滅ぶ日は来るのか?(4/4 ページ)

» 2020年03月02日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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考慮すべき「パワーバランス」

 一方、新卒が行う就活の“体質”が簡単には変わらないからこそ、「人材サービス」を提供する上で、留意しておかなければならない重要なポイントがあります。

 それは、「パワーバランスの差」です。学生の多くは経験が乏しい分、社会人としての標準的な判断力を持ちあわせていません。それに対して、採用企業側も「人材サービス」を提供する事業者側も、社会人として豊富な経験を有している人たちです。

 需給調整の目的は、需要と供給双方の希望を満たす「Win-Win」を成立させることにあることは、この連載で繰り返し強調していることです。しかし、「Win」の判断があいまいだと、後で「こんなはずではなかった」となってしまう余地が生まれてしまいます。

 もし、採用企業や「人材サービス」を提供する事業者がパワーバランスの差を不当に扱えば、本当はWinではないものを学生にWinだと信じこませてしまう可能性もあります。19年に起きた「リクナビDMPフォロー」の問題は、パワーバランスで優位に立つ企業、「人材サービス」側が情報を不当に取り扱った点に大きな倫理的問題があったと考えます。

パワーバランスを意識することが、離職率改善(=採用の成功)と人材サービスの未来につながる(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

 行政が問題視したのは、個人情報の取扱いや職業安定法の趣旨に反する行為についてです。もちろんそれらは問題ですが、そもそもパワーバランスで優位に立つサービス提供者側と採用企業側が、学生側の十分な理解を得ないままサービスを提供、利用していたこと自体フェアではありません。今回やり玉に挙がったのは、たまたまリクナビが提供したサービスの一部でしたが、そもそも新卒向け「人材サービス」を提供する上で、パワーバランスの差を考慮したフェアなサービスが提供されているかどうかについては、全てのサービス提供者と採用企業が省みて襟を正さなければならないことです。

 新しい「人材サービス」を開発して提供することは、学生にも採用企業にも新しい選択肢を提供する点において大いに意義があることだと考えます。内定辞退率予測も、学生側にその機能のメリット/デメリットをしっかり伝えて理解してもらった上で、自らの意思で利用してもらうならば、むしろ効率的でより良い就職先選びができる有用なサービスとなっていた可能性もあります。

 より良いサービスを世の中に提供するためにも、「人材サービス」事業者は需給調整の目的である「Win-Win」の実現に真摯に向き合う必要があります。4月から、ドラマ「ハケンの品格」が13年ぶりに放映されますが、問われているのは、まさに「人材サービス」事業者の“品格”なのだと思います。次回は、そのドラマでも描かれる「派遣」について考察します。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業。テンプスタッフ株式会社(当時)、業界専門誌『月刊人材ビジネス』などを経て2010年株式会社ビースタイル入社。2011年より現職。複数社に渡って、事業現場から管理部門までを統括。しゅふJOB総研では、のべ約3万人の“働く主婦層”の声を調査・分析。研究・提言活動では、『ヒトラボ』『人材サービスの公益的発展を考える会』を主宰し、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK『あさイチ』など、メディア出演・コメント多数。男女の双子を含む4児の父。


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