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「コスパ」ではない体験を 入社前に1年間の“海外武者修行” 矢崎総業の「アドベンチャースクール」が生まれた背景これからのキャリアは「カニ歩き」?(3/3 ページ)

» 2020年03月09日 05時00分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]
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「コスパ」ではない経験を

 アドベンチャースクールの運営などは、外部団体で外国語研修などを手掛けるエフ・アイ・エー(静岡県裾野市)が行う。エフ・アイ・エーの代表を務める金子詔一氏は、「最近の学生は『コスパ』を求める傾向にある」と話す。つまり、何かを始めようとしても、すぐに評価されないようなものには尻込みするということだ。

エフ・アイ・エーの金子詔一代表

 アドベンチャースクールを行う目的の1つである、外国語を習得することについて、金子氏は「体験」が重要だと話す。企業の中には、TOEICを社員に受験させるところもあるが、「言語それだけを丸裸で勉強しても意味がない」というスタンスだ。ビジネスや生活、あらゆる場のなかで外国語を活用するには、さまざまな体験を中心に、あくまで言葉はそのオプションという位置付けで学ぶ必要があるのだという。

 ただ、そうはいっても冒頭で書いたように、学生は学業に割ける時間がどんどんと減り、会社に入れば目の前のタスクをこなすことが中心になりがちだ。なかなか、「体験」を伴った学習をする機会はない。そういった中で、コスパでは測れない、どんなチャレンジをしても、失敗をしても許されるような場としてアドベンチャースクールを創設した。そのため、アドベンチャースクールでは参加の条件にTOEICの点数を設けることはしていない。英語や外国語ができなくても、カウンセリングなどで問題がなければ参加できるようにしている。

 金子氏は、「これからのキャリアは『カニ歩き』だ」と話す。1つの会社に勤めあげる「垂直方向」のキャリアではなく、時と場合に応じて会社を渡り歩いたり、あるいはまた戻ったりする「水平方向」のキャリアという意味だ。年功序列が崩壊する今、企業は「終身雇用はできない」と口で言いながら、なかなか従業員に対して時代を生き抜くための術を与えられていない。こうした状況への危機感からか、いくつもの有名企業からアドベンチャースクールに関する問い合わせが来ているという。

 日本の教育制度は、答えのある問題を解くのは上手だが、自ら問題を見つける人材を育てるのが不得意だとよく聞く。問題も答えも自分で探すしかないアドベンチャースクールは、これからの「人材教育」の新しいヒントになりそうだ。

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