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リテール業界を疲弊させる46兆円の無駄をAIで解消――サントリーや日本ハムも参画(2/4 ページ)

» 2020年03月11日 08時00分 公開
[酒井真弓ITmedia]

サントリー酒類、トライアルとのリテールAI活用で売り上げ向上

サントリー酒類 営業推進本部 兼 広域営業本部 部長 リテールAI推進チーム シニアリーダー 中村直人氏

 サントリー酒類の中村直人氏は、「われわれには2つの顧客がいる。消費者、そしてトライアルのような小売・流通店舗。購買を巡る両者の体験をどう向上させていくかが今後のカギ」と語る。

 消費者に提供する価値としては、「時間価値(購買プロセスの効率化)」を考えている。これには、商品を探す手間、レジ待ち時間の短縮だけではなく、献立の検討や調理、消費といった店舗外の行動も含め、日々の買い物をウンザリさせてきたプロセスをどう効率化させていくかがポイントとなる。

 もう一方の顧客である店舗に向けては、ID-POSデータ、商圏データなどのビッグデータとAIを活用し、最適な棚割を提案。多様なニーズに応えられる売り場作りを支援していくという。

 また、これまで店舗への集客といえば、折り込みチラシを中心に、店舗周辺の居住者に向けた画一的な施策が一般的だった。そこで同社は、トライアルのID-POSデータとSNSを組み合わせることによって、世代や性別、ライフスタイルといったセグメント単位での効率的なマーケティング施策を展開している。「変化の著しい消費行動とリアルタイムで向き合うためには、われわれのようなメーカーと店舗が協力してマーケティングを展開していく必要がある」(中村氏)

 実際、サントリー酒類とトライアルは3年間の協業を通し、数値実績も上げている。トライアルにおけるサントリー酒類のビール販売シェアは17.8%(17年)から23.2%(19年)に向上。また、トライアルの酒類売上高も、19年は市場全体の伸び率が前年比1%だったのに対し、7%向上した。

日本ハム、リテールAIで2週間前に発注、チャンスロス削減に寄与

日本ハム マーケティング推進部長 兼 新市場創造部長 小村勝氏

 日本ハムの小村勝氏は、ハム・ソーセージ業界全体の傾向として売り上げが微減していることを明かした。原因は、人口減で市場が少しずつ縮小していることに加え、売れ筋に変化がない、食べ方やメニューに広がりがない、新たなヒット商品が生まれていないことを挙げた。

 こと日本ハムにおいては、長くシャウエッセンの一本足打法状態が続いてしまっているという。「これまでの手法では、シャウエッセンを超える商品が生み出せなかったということ。VOC(Voice of Customer)やPOSデータの分析だけではなく、AIも活用し、新たな手法で消費者のニーズをくんだ商品開発を進めていきたい」(小村氏)

 「リアイル」においては、チャンスロスの削減に貢献する。小村氏は、「メーカーは店舗からの発注数に100%応えるのが使命」としながらも、「急な発注増や物流の問題で、100%応えられない場合がある。もし応えられるとしたら、あらかじめ多く製造しているということ。裏ではたくさんの食品ロスが発生している」と構造的な難しさを語った。

 この課題を解決するため、日本ハムはトライアルとの協業を通し、一部のエリアで、リテールAIを活用して2週間前に発注する「2週間前予測」と、前日の在庫状況を踏まえた「直前分析」で欠品率を改善し、チャンスロスを減らしている。

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