全雇用者に占める比率が3%に満たないという数字は、社会における存在意義という観点からすると、派遣社員の影響力をとても小さなもののように感じさせます。しかし、かつて「派遣村」や「派遣切り」といった報道が日本中を駆け巡った際に、派遣社員は不遇な働き方の代表のように扱われ、社会に大きなインパクトを残しました。派遣事業の実態を知る人たちには、当時の報道は過分にヒステリックで偏った内容が多かったと認識されています。しかし、中には派遣にかかわる「人材サービス」を提供してきた事業者が真摯(しんし)に反省すべき指摘がいくつもありました。
例えば、派遣切りと呼ばれた行為の中には、契約満了による雇い止めではなく派遣元の一方的な都合だけで契約期間を強引に中途解約したケースがありました。その上、残りの契約期間に見込んでいた賃金を保証せず、雇用期間中に利用できた住居まで突然取り上げるような仕打ちは、人道的に問題視されて当然です。当時設立された年越し派遣村の住民の実態としては、派遣社員として働いていた人は2割程度しかいなかったといわれます。しかし、その2割の人たちにとって、派遣村は“救い”となったはずです。
そして「人材サービス」事業者が忘れてはならないのは、不本意型の派遣社員へのサービスです。今回データを紹介した労働力調査では、派遣社員として働く主な理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」を挙げた人が30.8%いました。少なくともこの人たちは、「不本意ながら派遣を選んでいる」という、不本意型派遣社員だと思います。
正社員と呼ばれる働き方を希望している人に、派遣社員として長く働き続けることを求めるのは、自社の売上利益を高めたいと考える「人材サービス」事業者のエゴでしかありません。必要なのは、正社員になるためのアドバイスでありサポートです。本来の意向を無視することは、人材派遣というサービスの間違った利用方法を推奨する行為です。自社の売上や利益しか考えない事業者は、できる限り派遣社員として長く働かせよう、といった考え方に陥りがちです。そんな事業者が多いようであれば、人材派遣は、社会に必要とされる「人材サービス」として存在意義を示すことなどできません。
中には残念なことに、存在意義どころか、社会に害悪を及ぼす存在でしかないスタンスの事業者もいます。かつて、データ装備費の名目で不当な費用をピンハネした事業者が問題になったことがありました。派遣社員が社会保険に加入すると事業者負担も発生するため、利益確保を狙って社会保険に加入させない工作をする事業者の存在も、いまだに耳にします。
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