クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ヤリスの何がどう良いのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2020年04月20日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

クルマは命を乗せている

 で、こういう話を書くと、「公道では関係ない」とか「暴走運転を擁護するのか」みたいなことを言う人がいるのだが、クルマにとってこんな高負荷領域での挙動は、最後の最後で命を守るためにとても重要だ。例えば高速道路を走っていて、逆走車に出くわしたような場面を想像してほしい。逆走車の進路と他のクルマの回避先を見極めて、いずれともクロスしないラインを、瞬時に選んで、そこへクルマを持っていくことができなければ、座して死を待つことになる。

房総半島の最南端、野島崎灯台。南房総は、街道沿いにあまり商店がない代わりに、公衆トイレが非常に充実していて、家族連れでも安心。早くドライブが楽しめるようになることを祈る

 筆者の実体験でいえば、20代のころ、箱根で死にかかったことがある。資産家の友人の親父さんが、当時最新のアウディ100を買った。フラッシュサーフェースボディでCD 0.3、という空力性能が注目された3代目(C3)である。暮れも押し詰まった頃に、友人の家に遊びにいくと、親父さんがニカニカして待ち受けていた。「おい池田、ドライブ行こう。運転させてやるから」。いやこんな高級車のおろしたてで、かつ左ハンドル。しかも個人の持ち物なんてごめん被りたいのだが、どうしても運転しろといわれて、断れずにステアリングを握った。指定された行先は事もあろうに箱根である。

 夜だし、路面が凍っていたら嫌だなと思ったので、交通量の多いターンパイクを登り、下りは箱根新道を選んだ。普段は道路料金が惜しいので七曲で上がって国道一号で降りてくるルートなのだ。「おいもっと踏め」と何度も言われたが、高級車にビビり、かつ凍結が怖くて踏めない。そこに運命のタイミングが訪れる。

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