クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ヤリスの何がどう良いのか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2020年04月20日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 ブラインドコーナーを曲がった途端、20トントラックが目の前にいた。片側1車線の箱根新道で、はみ出し禁止のイエローラインを無視して、トラックが別のトラックに追い越しを掛けていたのだ。

 心臓が喉から飛び出るってのはこういうことかと思いつつ、フルブレーキを掛けたが間に合わない。追い越される側のトラックがフルブレーキを掛け、追い越している側はフルスロットル。

 筆者は火事場の馬鹿力を発揮して、奇跡的にもタイヤロックギリギリを保ちながらステアリングの効きを確保した。とにかく左へクルマを寄せるが、すぐにガードレールが迫る。その下は谷だ。助手席側の窓に大型トラックの側面のガードバーがどんどん大写しになってくる中、必死にガードレールとトラックの間にアウディをコントロールした。もうダメだ、と思った瞬間、トラックの後部とガードレールの隙間が見え始めた。そして間一髪、ボディがどちらに触れることもなくわずかな隙間をアウディは通り抜けた。

 怒りも何もない。もうただ脱力して茫然(ぼうぜん)とクルマを走らせた。誰も何もしゃべれない。無言の車内に、ただロードノイズが響いた。

 料金所にたどり着いた時、やっと親父さんが口を開いた。「ステーキ食おう」

 こういう時、クルマの限界的ハンドリングは生きるか死ぬかの境目を分けることになる。

 だから、急ブレーキを掛けながらハンドルを切ったら、リヤのグリップが失われてスピンしないかとか、限界挙動で逃げた先で、再度ハンドルを切って、より曲がらなくてはならないような場面で、クルマをコントロールできるかどうかは大事だ。トヨタの「もっといいクルマ」はそこのところに説得力を持ち始めた。

 そういう意味でヤリスは、少なくともトヨタのクルマ造りにとって画期的だし、価格帯200万円ラインのクルマのレベルが上がることは、社会にとってものすごく重要なことだと思う。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。


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