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「ポイントばら撒きブーム」に乗らない決済スタートアップの戦略(1/3 ページ)

» 2020年04月22日 07時30分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 最近でこそ落ち着いてきたものの、2019年のスマホ決済サービスが行った「ポイントばら撒(ま)き」は強烈だった(参考記事:先陣を切ったPayPay)。当たり前のように、20%還元キャンペーンを各社が繰り広げた。

 その結果、新しいサービスながら急速に認知や利用は拡大。19年秋から始まった、政府のキャッシュレス還元に間に合った形だ(19年9月の記事参照)。一方で、大規模なポイント還元の負担は大きい。独立系のOrigamiは、大きな負債を抱えメルペイに買収された(1月23日の記事参照)。LINE Payを運営するLINEも、19年12月期の通期決算は486億円の赤字。ポイントばら撒きなどによるマーケティング費用がかさんだ(1月29日の記事参照)。

 こんな中、ポイント還元を一切行わず、決済サービス事業を伸ばしているのが、Visaプリペイドの「バンドルカード」を提供するカンムだ。16年9月のサービス開始から約3年半で、200万ユーザーを突破。「収益も、コントロール可能な領域に来ている」と、同社の八巻渉社長は話す。

バンドルカードを提供するカンムの八巻渉社長

ポイント還元の損益分岐点は0.5%

 八巻氏は、ポイント還元は行わないと断言する。その背景には、決済サービスを事業として見た場合、利幅が非常に薄いことがある。決済が行われたとき、加盟店から支払われる手数料が決済サービスの収入となるが、粗利は1.5〜2%程度だと八巻氏は説明する。さらに、プリペイドカードにチャージするための決済代行手数料が1%を超える。そのため、ポイント還元を行っても赤字にならない損益分岐点は「0.5%くらいではないか」(八巻氏)というのが実情だ。

 個別の事情はあるにせよ、0.5%を超える還元を行っている事業者は、赤字前提で行っているともいえる。

 一方で、0.5%程度の還元率ではユーザーを引き付けられない。「差別化できるポイントの水準は高い。1%以上還元しないと差別化できないだろう。これではビジネスモデルが作れない。大きく還元しているところは、初期ユーザーを作るためだ」と、八巻氏は分析する。初期ユーザー獲得のための広告宣伝費として大きな還元を行っても、それを継続するのは難しい。

 「そういう選択肢を取れるのは通信キャリアしかない。そこでもうけなくても、ユーザーが逃げなければいいからだ」(八巻氏)。ドコモ、KDDI、ソフトバンクなど通信キャリアの収益の柱は、当然携帯電話料金だ。決済サービスがたとえ赤字となっても、それによってユーザーの携帯の解約を阻止できるなら安いもの。

 そんな背景から、決済サービス単体で事業を成立させようとしているところは、軒並みポイント還元競争で消耗しているわけだ。

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