今回の新型コロナ危機でも放っておけば失業者が急増することになる。野村総研の木内登英氏は、GDP(国内総生産)がリーマンショック後の1.3倍の落ち込み幅になると想定、265万人が職を失う計算となり、失業率はピークで6.1%に達するとしている。
トヨタの豊田社長はスピーチの締めくくりでこう述べた。
「コロナ危機をともに乗り越えていくために、私たちがお役に立てることは何でもする覚悟でございます」
トヨタだけを守れば良いのではなく、そこにつらなる膨大なサプライチェーンと、そこで働く人たちの雇用を守る、としたのである。サプライチェーンを守り抜くことができなければ、新型コロナが終息した後に生産を元に戻すことができなくなり、V字回復は望めなくなる。
トヨタの「覚悟」は決算数字だけでなく、資金繰りにも現れている。連結キャッシュフロー計算書を見ると、財務キャッシュフローが3971億円と大幅な流入超過になっている。長期借入金を前年度同規模の4兆4249億円返済する一方で、前年度を大きく上回る5兆6914億円を借り入れている。グループ会社全体の資金繰りを考えて手元資金を厚くしたということだろう。
3月27日の段階で、早くも「三井住友銀行と三菱UFJ銀行に対し、計1兆円規模のコミットメントライン(融資枠)の設定を要請した」と報じられている。運行が止まって資金繰りが厳しくなったANAやJALの融資枠設定が報じられるより前のことだ。
実はトヨタ・グループはリーマンショック時にドル決済資金が調達できずに窮地に立った苦い経験を持つ。早めに資金手当の予防策を打つ一方で、サプライチェーンを守るために、グループや取引先への緊急融資などに備えているに違いない。
日本で最大の売上高と利益を上げ続けてきたトヨタ。サプライチェーンを守るために何でもするという覚悟が、日本経済の瓦解を防ぎ、コロナ恐慌へと転落することを何とか阻止してくれることに期待したい。
磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP )、『2022年、「働き方」はこうなる 』(PHPビジネス新書)、共著に『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP )などがある。
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