ちなみに法的には、ハンコ自体に特別な法的効力があるわけではなく、原則として署名があれば足りるとされている。契約については、「当事者間で合意した」という事実認定がなされれば成立するものなので、本質的には契約書面がなくとも、口頭やメール、LINEのやりとりなど、何らかの形で合意が成立していさえすれば有効なのだ。ハンコは、「確かに本人が押した」という単なる証明にすぎない。
従って、世の中に存在する取引の多くはハンコがなくても法的に何の問題もなく、契約する当事者の安心感を担保する程度の存在なのである(ただし例外的に、不動産登記や法人登記のように実印登録や実印の押印が法律で規定されている場合や、自筆証書遺言のように押印が要件の場合もある)。
今般のコロナ禍において数少ないメリットの1つであろう「紙とハンコ文化の撤廃」を推し進めるためには、この機に日本の商慣習自体を見直し、変えていくしかない。実際、日常生活においてハンコが法的要件になる事例はほとんどないので、いずれ印鑑制度自体も見直されることになるだろう。そもそもハンコ自体も、当時の技術の中で「簡単かつ便利な契約証拠作成ツール」として生まれ、広がっていった経緯があるわけだから、21世紀の今、ハンコに代わる安全な契約確認手段として電子認証を広めていくこともできるに違いない。
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。
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