クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

「20モデル以上の新型車」はどこへ? どうなる日産自動車池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2020年06月22日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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中国マーケット依存、EV依存への不安

 マーケットは北米、中国、日本の3極をコアに、持続的な成長に注目していくことになっている。ただし、この部分で不安を感じるのが中国の状況だ。米中経済戦争はすでに世界対中国へと状況を変えつつあり、日産の復活計画の中で、中国マーケットが存在感を示してしまっていることはちょっと不安材料だ。かといって、中国マーケットへの依存を減らしつつ復活プランが描けるのかといえば、なかなかに厳しいものがある。

 依存といえば、復活計画でのEVへの依存も基本類似の構造である。EVは販売先として中国比率が高いので、前述した通りカントリーリスクにさらされるし、そもそも日産はNECと合弁で立ち上げたバッテリー生産会社を中国資本に売却してしまった。こうなると中国のカントリーリスクはサプライチェーンの面でも爆弾となりかねない。

 まだ利益貢献面での成果が不確実なEVはともかく、稼げることが見えているe-POWERにまで影響があると、だいぶ厳しくなる。そうならないためには、中国以外のバッテリー供給元を確保しなければならない。普通に考えればパナソニックだろうが、パナソニックにその余裕があるかどうか。

 このほかに日産が期待しているのは自動運転のプロパイロットだが、ベースのクルマが何であれ、プロパイロットさえ付いていれば売れるとは考えにくく、やはりアライアンスが役割分担して生み出す新世代シャシー群の出来が良いことが前提である。そこに先進運転補助機能が搭載されて魅力が増すということならば考えられる。

 ということで、日産が危機を脱出できるかどうかは、兎(と)にも角にもちゃんとした新世代シャシーを早急に開発して、魅力的かつ売れる新モデルが出せるかどうかにかかっている。まずは1台目をしっかり売ってみせることだ。それができて初めてその先の戦略が生きることになる。

 かつての日産は信頼に足る実験部隊を持ち、多少出来が悪いクルマでもセッティングで救って来たことが何度もあった。例えばヒットモデルだったプリメーラは、大勢の船頭が口出ししすぎて、3代目P12のデビュー時には、もう商品企画が混乱してどうにもならなくなっていた。当然売れない。しゃしゃり出てああしろこうしろと御託を並べた多くの人は、売れなくなった時簡単に見捨てた。

 誰も関心を持たなくなったP12を、マイナーチェンジの時に見捨てることなく、タイヤキャパシティを落としてまでハンドリングのバランスを取ってきた日産の実験部隊のクルマへの愛に筆者はとても感動した。その愛でプリメーラを救うことは叶わず、結局廃絶されてしまったが、あの時の実験部隊の仕事を、筆者は多分一生忘れない。

 EVだのプロパイロットだのもいいが、日産の本質的価値は、そういうクルマづくりの根本の技術にあるはずだ。そういう部分が再び機能できるかどうか、本当の大事なところはそこではないかと思うのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。


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