さて、購買コスト要因ではプラスの1042億円効果となった。もちろんコストが下がるのはいいことなのだが、これだけの負け戦の中でコスト削減に着手すると無茶なことになりがちなのが心配である。しかもちょっとコストダウン幅が大きいように見える。
サプライヤーとのフェアな値引き交渉によってこの数字であればいいが、世の中には「貧すれば鈍す」という言葉もある。日産再生のためには、これからの大変な時期を、多くのサプライヤーが一緒に頑張ってくれなければならない。貴重な味方なのだ。礼を失するようなコストダウンに走ると、復活の芽を自ら摘み取ってしまうことになりかねないことに、日産は留意しなければならない。
次に研究開発費だ。これは325億円増えている。減っているよりずっとマシだが、今日産がやるべきは、迅速なモデルラインアップの刷新によって、戦闘力のある新型車を並べることだ。それができなければ何も始まらない。もっといえば会社ごとなくなるリスクが高まる。だとすれば、開発費は何をどう耐え忍んでももっと積み増すべきではなかったか?
前回の決算発表で、日産自身が説明したプランによれば、22年度までに20モデル以上の新型車を投入する計画だったはず。しかし少なくとも当期はそうした動きは見られないままだった。昨年のコミットメントは何だったのか?
そして、19年度決算発表直前の5月27日に行われたルノー/日産/三菱アライアンスの取り組み発表では、アライアンス各社が、セグメント毎のマザー車両を開発して、プラットフォームのみならずアッパーボディも共用化を図っていくと発表した。どうやらプランのやり直しが行われたということらしいが、それにしても昨年の発表に対する総括がないのはどうだろうか?
ちなみに新プランでは、各社でセグメントごとに開発車種の役割分担を行うと発表している。担当分けは、ルノーがA、Bセグメント、日産が軽自動車とCセグメントとEV開発を担当する話になっている。分担して開発した車種をマザーモデルとして、それを各社がそれぞれのフォロワーモデルにアレンジする。ルノーのBセグがマザーで、それをベースとする日産のBセグはフォロワーという関係だ。
つまり日産は少なくとも3種類のマザー車両を設計しなくてはならないし、ルノー側が開発するマザーモデルに関しても、ベースを共用しながらもフォロワーモデルは自社で開発することになる。
こうしたモジュラー化を複数の会社でシンクロさせながら進めるとなれば、それぞれに基礎研究費の負担ものしかかるはずであり、日産はそのためにはどう少なく見ても開発費を1000億円くらいは増やさないと、話にならないはずである。
というのも、あのトヨタですら、ブランニューのシャシーをリリースするのはせいぜい年に1台弱のペースであり、具体的には15年から20年の6年間をかけて、GA-C、GA-K、GA-L、GA-Bの4プラットフォームをデビューさせてきた。軽自動車とAセグメントはダイハツに任せ、トヨタのTNGAと共通の思想を持つDNGAプラットフォームとしている。そのトヨタは毎年研究開発費を1兆円確保しているのだ。
大変厳しい言い方になるが、一年前の決算説明会で決意を持って語られた22年までに20車種以上を開発して復活の起爆剤にするのだという話とは裏腹に、この一年はとても小さな予算の中で、開発が行われてきたということだ。残念ながら危機感はあの場限りだったようにも見える。
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