クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ようやくHVの再評価を決めた中国池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2020年06月29日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

HVに有利な10年

 ただし、2つの規制は対応の方向性と、規制の効果がまったく違う。

 例えばCO2排出総量を30%削減しようとする時、ZEV/NEVのアプローチならば販売台数の30%をEVかFCVにしなければならない。CAFE/CAFC的アプローチであれば、65%をHV化するとそのくらいになる。車両価格を考えるとZEV/NEVを30%分売るより、HVを65%分売る方が実現性が高い。日本国内の実情に照らせば、EVなら今の15倍売らなくてはならないが、HVは今の2倍程度でなんとかなるからだ。

 ZEV/NEVのアプローチにそのまま対応できるのは、小規模なEV専業に近いメーカーだけだ。規制の本来の目的は環境の改善であるに決まっている。罰則によってEV/FCVの普及が進めばいいのだが、それで環境改善が進まないのだとしたら、メーカーが罰金に苦しむだけで、規制は単なる経済成長のブレーキになってしまう。それがZEV/NEVの抱える課題なのだ。

 ではCAFE/CAFCの方は各社がクリアできているのかといえば、こちらもクリアできた会社は少ない。というか、すでに本連載では何度か書いてきた通り、欧州の20年CAFE規制をクリアしたのはトヨタ1社である。それでも、1社とはいえクリアできたとすれば、やり方がある。それこそがHV車の普及である。

WLTCモードで35.8キロというとんでもない燃費を武器に、CO2削減でも好成績を叩き出すヤリス・ハイブリッド

 今の時点に限れば、後者のHV車普及の方が成果が大きい。こんな現実が、中国でも規制の見直しを促した。一党独裁の権限を徹底的に発動して、EV/FCVへの転換をやれる限り実行してみた結果として、見込みが甘かったことが分かった。そこでもう一度CO2を効率的に削減できる方法を見直した結果、当面のブリッジとしてHVを再評価する動きになったということだ。具体的には、従来「内燃機関(ICE)車両」と「NEV」の2つに分類していた車両区分に、新たに「低燃費車」を加え3分類にした。

 25年規制値では全生産台数の内、25%分のNEVの生産が義務付けられることになっていたが、3分類化によって内燃機関車両のうち一部を「低燃費車」に置き換えれば、低燃費車分についてのNEVの義務付けが軽減され、CO2排出量に応じて、この25%が5〜12.5%に下がる。

 つまり新ルールでは、低燃費車として最も燃費の良いHVを生産すればするほど、無理してEVを作らなくて済むことになる。要するにHVが増えてその結果EVが減る。今後10年はHVが主流の時代が続くだろう。

 これはあくまでも現在の話であって、当然時代が進めば最適解が変わる。HVでは達成不可能なほど高レベルなCO2削減のためには、EVやFCVは必ず必要になるので、ゼロエミッションカーの販売を促進するZEV/NEV規制は今後も重要ではある。20年、あるいは30年先には、EVやFCVが普及価格に達し、その時には全車両ゼロエミッションを目指す時代がやってくる。そうなれば、再びHVがZEV/NEVから除外される時代が来るだろうし、それは環境対策として全く正しいことだと思う。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.