香港での為替売買の停止は貿易の停止を意味する。そうなると中国国内からのサプライチェーンの事業継続も怪しくなってくる。特にこれまで、中国国内で販売するEVやHVは中国製のバッテリーを使えと共産党が横車を押してきていた関係で、世界のバッテリー供給のシェアは相当数が中国頼みになっている。
これらが果たしてどうなるのか予断を許さない状況なのだ。というあたりで再び呆れるのだが、トヨタは中国以外の地域で売るHVのバッテリーはパナソニックを採用している。他社が軒並みCATLやBYDなどの中国製バッテリーを採用しているのに対して、トヨタは用心深く中国製のバッテリー使用を中国国内販売用のみに留めている。トヨタだけはいざとなれば尻尾を切って逃げられる。中国国内のサプライチェーンと一蓮托生になってないのだ。
2017年に、汎用角形バッテリー事業の協業についての調印を行ったトヨタの豊田章男社長と、パナソニックの津賀一宏社長
さて、全体を振り返ろう。中国での規制の変更でどうやらHVが勢いを盛り返しそうなことが見えてきた。しかしながらその中国は米中経済戦争の激化で金融の手厳しい締め付けが秒読み段階に入っている。HVの再評価は、トヨタ、ホンダ、日産にとって、大きなチャンスでもあるが、地雷である可能性も無視できないほどに膨れ上がっている。われわれはしばらく事態の推移を見守るほかにない。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。
- 新型コロナ恐慌がもたらすマーケット変化
新型コロナウィルスの登場によって、今まさに進行形で世界経済はパニックに陥っている。自動車産業も全体としては大変厳しい局面を迎えるだろう。5月発表の各社の決算は多くが赤字に沈むだろう。今手元にある材料で判断する限り、比較的復興が早いと思われるのは、米国と日本になるのではないか?
- 暴走が止まらないヨーロッパ
英政府は、ガソリン車、ディーゼル車の新車販売を、ハイブリッド(HV)とプラグインハイブリッド(PHEV)も含め、2035年に禁止すると発表した。欧州の主要国はすでに2040年前後を目処に、内燃機関の新車販売を禁止する方向を打ち出している。地球環境を本当に心配し、より素早くCO2削減を進めようとするならば、理想主義に引きずられて「いかなる場合もゼロエミッション」ではなく、HVなども含めて普及させる方が重要ではないか。
- 日本のEVの未来を考える(前編)
EVの未来について、真面目に考える記事をそろそろ書くべきだと思う。今の浮ついた「内燃機関は終わりでEVしか生き残れない論」ではないし、「EVのことなんてまだまだ考える必要ない論」でもない。今何が足りないのか? そしてどうすれば日本でEVが普及できるのかという話だ。
- 2020年の中国自動車マーケット(前編)
世界の自動車販売台数の3分の1を占める中国で変調が起きている。中国マーケットで起きていることをちゃんと押さえることが第一。次いでその原因だ。そしてそれらが20年代の自動車産業にどんな影響を与えそうなのかを考察してみよう。
- EVへの誤解が拡散するのはなぜか?
EVがHVを抜き、HVを得意とする日本の自動車メーカーは後れを取る、という論調のニュースをよく見かけるようになった。ちょっと待ってほしい。価格が高いEVはそう簡単に大量に売れるものではないし、環境規制対応をEVだけでまかなうのも不可能だ。「守旧派のHVと革新派のEV」という単純な構図で見るのは、そろそろ止めたほうがいい。
- 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。
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