“悪者扱い”の誤解解く発言も JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【前編】杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2020年07月03日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

川勝知事「全面的に協力したいと思っている」

[0:30:43] 川勝知事「全面的に協力したいと思っている」

 金子社長は前社長時代にリニアの認可を受けた時を振り返り、「太田大臣(当時)から、工事は安全が大切、環境保全もしっかりやってくれ、地域との連携をしっかりやってくれ」と言われ、それをずっと続けているという。

 この発言を受けて川勝知事は14年7月18日付の「環境影響評価書に対する国土交通大臣意見」から、「環境保全に関するデータや情報を最大限公開し、透明性の確保に努めること」「水道用水、農業用水、工業用水及び発電用水等に利用されていることから、河川流量の減少は河川水の利用に重大な影響を及ぼすおそれがある。このことを踏まえ、必要に応じて精度の高い予測を行い、その結果に基づき水系への影響の回避を図る」という部分に言及。

 さらに、14年6月5日付の環境大臣意見より、「我が国を代表する優れた自然の風景地として南アルプス国立公園に指定されており、また、ユネスコエコパークとしての利用も見込まれることから、当該地域の自然環境を保全することは我が国の環境行政の使命でもある」「発生土の適正な処理、希少動植物の生息地・生育地の保護、工事の実施に伴う大気汚染、騒音・振動対策等、本事業の実施に伴う環境影響は枚挙に遑(いとま)がない」「本事業の実施に当たっては、次の措置を講じることにより、環境保全について十全の取組を行うことが、本事業の前提である」と引用した。

 川勝知事は続けて「その責任をJR東海は負われている。私どももこの方面で全面的に協力したいと思っている」とした。これは心強い。19年12月の静岡県議会で県側は「調査はJR東海が実施すべき」という認識を示したけれど、全面的と言うからには調査に必要な工事に関してもバックアップすると言ったも同然だ。

[0:30:43] 井川地区の事情を知事は知らなかった

 工区の話題に戻り、ヤード工事現場までの道路が未整備な上、昨年の台風19号の被害で危険な状況になっているという認識で一致。この道は静岡市との協定でJR東海が整備することになっている。川勝知事からは道路の整備を急ぎ、現場で働く静岡県民の安全を確保するよう求めた。金子社長からは、救急車とヘリが使える状態にする、椹島(さわらじま)ヤードに看護師と救急救命士を常駐させると約束した。

 川勝知事からは素朴な疑問として、JR東海が整備する静岡県道189号三ツ峰落合線よりも、静岡市道閑蔵線のほうが安全ではないかと質問した。これに対し金子社長は「井川地区との話し合いで静岡市道閑蔵線経由を提案した。しかし、トンネルを掘って静岡へ短絡してほしいという井川地区の悲願と言われた」と説明した。

 JR東海が工事にあたり沿道に対して丁寧な対応をしてきたことが分かる。しかし、逆に、川勝知事がそのようなやりとりを知らないという点が気になった。川勝知事は全ての地域の実情を把握できていない。自分で行かずとも、報告は受けていない。あるいは見落とした。しかし、この失点は面談で理解すれば取り返せる。トップ面談をして良かったな、と思わせる一幕だ。

道路整備について(地理院地図を加工)

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