攻める総務

社員が「幸せ」になったら、業績もアップ 「幸福度」を測る、日立の野望新会社「ハピネスプラネット」を設立(1/2 ページ)

» 2020年07月17日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
photo ハピネスプラネットの矢野和男CEO

 「幸せ」を商材にする企業が誕生する。

 この字面だけを見ると、いかがわしい宗教や眉唾(まゆつば)もののコンサルティングのような印象を受けるが、日立製作所が開発・研究を続けてきた事業をスピンアウトさせて興した、至って真面目なビジネスだ。社員の「幸福度」を定量化し、彼らが前向きに働けるようにサポートするという。日立が7月20日に設立する新会社「ハピネスプラネット」の矢野和男CEOに、事業の概要を聞いた。

「幸せ」を定量化する仕組み

 この事業の核は、日立で矢野氏が中心となって、過去15年にわたり研究してきた人の「幸せ」を定量化する仕組みだ。無意識下で起きる身体の動きをウェアラブルセンサーで記録。その身体の動きと、別途実施する被験者へのアンケート形式の心理検査を組み合わせることで、両者の間に一定の法則を見出した、というのだ。

photo 矢野氏のウェアラブルセンサーの記録(12年分)を可視化した図。20ミリ秒ごとに記録。青が就寝時で赤が活発な活動を示している。昼夜逆転している部分は海外出張。同社では「ライフタペストリー」とオシャレな呼び方をしている=日立製作所提供

 従来の「ポジティブ心理学」では、幸福度を計測する手法として被験者へのアンケートやインタビューだけで実施するのが、主な手法だった。この方法は、人によるばらつきが大きく、主観的で信憑(しんぴょう)性や再現性に乏しいという問題があった。

 しかし「無意識下で起きる人間の身体の動きをセンサーで記録したデータには、真実が含まれている」(矢野氏)という考え方のもと、7社、10組織、468人分の身体的な動きをのべ日数で1000万日分記録。その上で、米国国立精神保健研究所(NIMH)が開発した、世界中で標準化されたうつ病の自己評価尺度によるアンケートを実施。その分析を経て、幸せな人や幸せな人が多い集団に見られる特徴的な身体運動のパターンがあることを発見したという。

 このような手法で確立した「幸福度を定量化する仕組み」を武器に、社員の幸福度向上を目指す企業に対し、専用のスマートフォンアプリとSaaSを提供するというビジネスなのだ。

photo 日立が掲げる「ハピネス新産業の構想」。まずは、顧客企業向けにアプリとプラットフォーム(SaaS)を提供する。将来は、各業種でサービスを構築可能なAPIを提供する計画だ=日立製作所の資料より

社員が幸せになれば、企業の業績は上がる?

 矢野氏らは、幸福度の単位を「ハピネス関係度」と名付け、スマホの加速度センサーを利用して計測した体の動きから、ハピネス関係度を割り出し、ハピネス関係度を上げるためのマネジメント手法やチップスなどを提供する。このサービスを利用する組織は、社員のハピネス関係度を横目でにらみながら、組織の幸福度向上に注力する、という流れになる。

 具体的には、マネジメント層や現場のマネジャーといった立場の人間が、次のようなアクションを心掛けることが大切だと、過去の実証実験から判明しているという。それは、「職場での声がけや、ちょっとした雑談を欠かさないなど、適切なコミュニケーションを図る」「周囲との人間関係や職場内での心理状態の改善に気を配る」といったことをハピネス関係度を見ながら注意すべきというのだ。

photophoto スマホアプリ「Happiness Planet」の画面。日々のハピネス関係度を記録する。ハピネス関係度を上げるための、チップスなども、アプリ内で提供している

 身体運動からハピネス関係度を割り出す手段として、日立は「Happiness Planet」というスマホアプリを2018年から無料で公開。多くの組織が実験に協力・参加し、利用してきた。日立グループ内での実験では、加速度や近接度を計測できるセンサーを利用していたようだが、広く普及を計るために、スマホに内蔵された加速度センサーでも計測できるようにアプリを開発した。

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