攻める総務

社員が「幸せ」になったら、業績もアップ 「幸福度」を測る、日立の野望新会社「ハピネスプラネット」を設立(2/2 ページ)

» 2020年07月17日 07時00分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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 筆者が気になるのが、幸福度と企業業績との間に関係性を見いだせるのかという部分だ。この分野の研究は世界中で進んでおり、「Harvard Business Review」誌が2012年1月〜2月号で「The Value of Happiness? How Employee Well-Being Drives Profits」という特集記事を組んだことで多くの人に知られるようになった。幸福度の高い組織は、そうではない組織と比較して、生産性や離職率の点で優位性があるという内容だ。

 実際、日立グループのセールスチームでこの取り組みを導入したところ、四半期の受注額が目標より平均16%上回った。導入していないチームでは平均11%下回り、27%の業績差が付いたという。別のコールセンターでの実証実験では、幸福度が高め(平均値以上)の日は低め(平均値以下)の日に比べて、1日の受注率が34%高いという結果も得られたとしている。

 ここで、幸福度の単位を「ハピネス度」ではなく「ハピネス関係度」と名付けているのには理由がある。アンケートで幸せであると答えた人は、普段から幸福度が高い人に囲まれた形で人と接していることが分かっているからだ。つまり、単純に個々人の幸福度を尺度にして、組織の幸福度を上げる施策を図るのではなく、組織を構成する人間の関係性における幸福度向上を目指すための指標という意味で、ハピネス関係度としている。早い話が、良い人間関係が構築された組織は幸福度が高い、というわけだ。

在宅勤務で、ハピネス関係度は上がる? 下がる?

 アプリをインストールしたスマホを1日のうち、3時間以上身につけることで、ハピネス関係度を計測できるというが、一つの疑問が湧く。加速度センサーで、さまざまな身体運動が計測できることは理解できる。しかし他人と接しているときの身体運動を測定する際、加速度センサーだけでは人と接触しているという情報は得られないのではないか。

photo スマホではなくApple Watchを使って、身体運動を計測する仕組みも開発中という

 これに対し、矢野氏は「15年にも及ぶ研究の結果、近接センサーがなくても、加速度センサーから得られる数値だけで、それが人と対面時の動きがどうかを判断する仕組みを構築した」と力説する。

 確かに、幸福な社員が多くいる組織は業績が良いだろう、ということは感覚的には理解できる。ただ、筆者としては「なぜ、そうなるのか」というメカニズムを知りたいと考えてしまう。

 しかし以前取材した際、矢野氏は「ここで、なぜを考える必要はない」と言い切った。重要なのは「ハピネス関係度が向上すると業績が上がる」という事実に着目すればいいというのだ。その理由を探求することに時間を費やす必要はなく、ハピネス関係度が向上するための施策を考えて、そこに労力を費やすことを優先すべきというのだ。

 今回のハピネスプラネット事業の立ち上げは、コロナ禍以前から計画されていたというが、リモートワークが広がるなかで、人々の働き方は大きく変わった。そうなると、リモートワークがハピネス関係度に何らかの変化をもたらすのではないかと考えるのが普通だ。

 これについて、矢野氏は「リモートワーク下でも、インフォーマルなちょっとした雑談や声がけによるコミュニケーションが、職場での心理的安全性を高め、結果的にハピネス関係度が向上するというわれわれの方法論に変わりはない。アプリには“プチホウレンソウ”と名付けた、ちょっとした、雑談レベルのコミュニケーションが行える仕組みも入れた」と胸を張る。

 ただ、リモートワーク下における日立社内での検証はこれからだ。矢野氏は「在宅勤務が始まって、日立社内のハピネス関係度がどのようになったのかという評価はまだ実施していないが、これは非常に興味深いテーマだ。ちなみに、私個人のハピネス関係度は下がってしまった。大いに自己反省すべき」と苦笑した。

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