さて、ヤリスクロスだ。全体のスタイルは、上背があるせいもあって、ヤリスより立派で、高級感がある。基本的な形は、4つのタイヤを外に押し出して、踏ん張りを効かせ、前後のホイールハウスの上を梁(はり)でつなぐ建築的スタイルだ。
両サイドを強く絞り込んだフロントマスクは、良く言えばクール、悪く言えば無表情。ボディ全体の面構成は最近のトヨタらしく、少しヌメリ感のある曲面という成り立ちだ。まあ、今時の都市型SUVとして悪くない。
運転席に座ってみると、シートは最近のトヨタ水準。改善余地はまだまだあるが、昔のトヨタのシートに比べたら長足の進歩なのは事実である。ちなみに、詳細は未発表ながら、ヤリスクロスで初採用になるワンモーター式のパワーシートがグレードによって選べるらしい。重量的にも価格的にもコンパクトクラスへの装備を可能にするもので、家族で1台のクルマを使う場合などは非常にありがたいだろう。ただインターフェイスとなるスイッチのストローク代がやたらと大きく、どのレバーでどれが動くのかは直感的に分かりにくい。自己所有なら一度覚えれば済む話だが、レンタカーなどでは戸惑う人も出そうだ。
このクラスに採用すべく開発された1モーターの電動シート。一番前の逆三角形のスイッチがシートの前後、真ん中が上下、後ろがリクライニングの調整用だ。またドアがサイドシル全体を覆うようにかぶさるので、泥道を走行した後、服の裾を汚しにくい配慮がされている
前席に着座してペダルオフセットを見る。こっちもヤリスとほぼ同じ。それでも努力は認めなければならない。ヤリスよりもタイヤ径が上がっているので、本来はホイールハウスの張り出しは大きくなるはずだが、ドライブシャフトの角度をつけることでホイールセンターを8ミリ前へ出すことで、ホイールハウスの車室への侵入を防いでいる。チーフエンジニアによれば「ホイールハウスの拡大は前方で取りました」とのことだ。
後席は流石に広々とはいえない。膝前のスペースもミニマムだが、シートそのものの出来は良い。特に座面の前上がり角がちゃんとしていて、クッションの沈み込みと合わせて、座った姿勢が安定している。
だいぶ改善されたとはいえ、まだ完璧とはいえないペダルオフセット
空間は広いとはいえないながら、シアター式に高さを上げ見晴らしに配慮したリヤシート。ヤリスより高いルーフのおかげだ
- ヤリスのトレードオフから考える、コンパクトカーのパッケージ論
ヤリスは高評価だが、満点ではない。悪いところはいろいろとあるが、それはパッケージの中でのトレードオフ、つまり何を重視してスペースを配分するかの結果だ。ヒューマンインタフェースから、なぜAピラーが倒れているかまで、コンパクトカーのパッケージに付いて回るトレードオフを、ヤリスを例に考えてみよう。
- ヤリスの何がどう良いのか?
ヤリスの試乗をしてきた。1.5リッターのガソリンモデルに約300キロ、ハイブリッド(HV)に約520キロ。ちなみに両車の燃費は、それぞれ19.1キロと33.2キロだ。特にHVは、よっぽど非常識な運転をしない限り、25キロを下回ることは難しい感じ。しかし、ヤリスのすごさは燃費ではなく、ドライバーが意図した通りの挙動が引き出せることにある。
- ヤリスとトヨタのとんでもない総合力
これまで、Bセグメントで何を買うかと聞かれたら、マツダ・デミオ(Mazda2)かスズキ・スイフトと答えてきたし、正直なところそれ以外は多少の差はあれど「止めておいたら?」という水準だった。しかしその中でもトヨタはどん尻を争う体たらくだったのだ。しかし、「もっといいクルマ」の掛け声の下、心を入れ替えたトヨタが本気で作ったTNGAになったヤリスは、出来のレベルが別物だ。
- ヤリスの向こうに見える福祉車両新時代
還暦もそう遠くない筆者の回りでは、いまや最大関心事が親の介護だ。生活からクルマ消えた場合、高齢者はクルマのない新たな生活パターンを構築することができない。そこで活躍するのが、介護車両だ。トヨタは、ウェルキャブシリーズと名付けた介護車両のシリーズをラインアップしていた。そしてTNGA以降、介護車両へのコンバートに必要な構造要素はクルマの基礎設計に織り込まれている。
- ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編)
今回のGRヤリスでも、トヨタはまた面白いことを言い出した。従来の競技車両は、市販車がまず初めにあり、それをレース用に改造して作られてきた。しかし今回のヤリスの開発は、始めにラリーで勝つためにどうするかを設定し、そこから市販車の開発が進められていったというのだ。
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