クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

トヨタの大人気ない新兵器 ヤリスクロス池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2020年07月27日 07時02分 公開
[池田直渡ITmedia]

 さて、次はせっかくのサーキットなので限界域の挙動の話だ。これは別に公道でレースまがいの運転をしろという話ではない。例えば高速道路で逆走車に出くわしたようなケースで、緊急回避時の挙動がどの程度安全に仕立てられているかの話だと思って読んでほしい。

 まず、ストレートの途中でダブルレーンチェンジ。速度は時速100キロ弱。急ブレーキを踏みながら一車線分右にクルマを振って、再度元のレーンに戻る。拍子抜けするくらい何も起きない。これなら誰でもできる。

 次に、強くブレーキを掛けてフロントタイヤをロックに近い状態に持ち込んで、ハンドルを切っても当然思ったようには曲がらない。本当はロックさせたいのだが、今のクルマでは電制が介入してロックできない。

 ここからブレーキを緩めていった時の、フロントタイヤのグリップの回復具合をみた。ある速度から急にフロントのグリップが回復して横っ飛びにノーズが横へ向かうタイプは、ドライバーを選ぶ。ヤリスクロスはこの動きが穏やかで制御しやすい。穏やかに回復し、そこから再度ブレーキでアンダーを出しても落ち着いている。

ボディに対して大きく張り出した力強いフェンダーと、開口部を最大に取ったテールゲートがSUVらしさを演出する

 旋回Gの高い逆カントのコーナーでアクセルを抜いたり、ブレーキを舐(な)めたりすれば、当然リヤが滑り出す。この動きも滑らかで一貫している。チーフエンジニアは、グリップの急激な回復で横転することが万が一にもないように、滑らせながら耐えるように仕立てたという。

 その主役は電子制御技術のVSC(横滑り制御機能)で、4つのタイヤそれぞれに適宜制動を掛けてボディーの動きをコントロールしているのだが、陰の主役はボディ剛性だ。ボディとサスペンションが動いてしまってはタイヤの接地圧が頻繁に変わり、VSCが緻密に制御できない。

 試乗途中で雨が土砂降りになってくると、さしものVSCも滑らかな制御ができなくなり、唐突な挙動が混じりはじめた。路面の水膜の厚さが局所的に変わるこういう状況では、ボディ剛性が低かった時代と同じようにVSCの効力が落ちてしまうのだ。雨の日はとにかくスピードダウンを心がけるべき。それはヤリスクロスに限った話ではない。

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