走り出し、タイヤのひと転がし目に段付き感はなく、制御しやすいのは合格。直進安定性は矢のようにとはいかないが、自然で好ましい。ステアリングも違和感がない。全体の進歩から見ると、ブレーキだけはもう少しかっちりしてもいいと思うが、踏力がちゃんとかけられないユーザーを想定すれば、こういうストローク依存のブレーキになるのは止むを得ないかもしれない。
ヤリスは軽量を生かして、サーキットでかなり生き生きと走ってくれたが、ヤリスクロスはそういう意味では鮮度、あるいは感度が低いともいえるだろう。ただしそれは必ずしもネガティブな話ではなく、鷹揚(おうよう)で優しいリズムを持っているということでもある。ビビッドに走るクルマは楽しいが、ビビッドに走るクルマだけが楽しいわけじゃない。まあファン to ドライブの形が違うということだ。
ヤリスと比べると“のどか系”なのだが、少し前のトヨタ、例えば先代のカローラのような不感症タイプではない。徹頭徹尾どアンダーで気持ちがどんよりしてくるというのが、トヨタのダメなクルマの特徴だったけれど、ヤリスクロスは、ちゃんと操作した通りに動いてくれる。運転に集中していちいち反応が敏感で楽しいことを求めるならヤリスにしておいた方がいいが、むしろ多少の雑な扱いを許してほしいならヤリスクロスだろう。まあ言い方は少し極端だが基本的な性格分けはそういう感じだ。
基本デザインはヤリスと共通ながら、フェイシアなどの変更が加えられたインテリア
ヤリスのトレードオフから考える、コンパクトカーのパッケージ論
ヤリスは高評価だが、満点ではない。悪いところはいろいろとあるが、それはパッケージの中でのトレードオフ、つまり何を重視してスペースを配分するかの結果だ。ヒューマンインタフェースから、なぜAピラーが倒れているかまで、コンパクトカーのパッケージに付いて回るトレードオフを、ヤリスを例に考えてみよう。
ヤリスの何がどう良いのか?
ヤリスの試乗をしてきた。1.5リッターのガソリンモデルに約300キロ、ハイブリッド(HV)に約520キロ。ちなみに両車の燃費は、それぞれ19.1キロと33.2キロだ。特にHVは、よっぽど非常識な運転をしない限り、25キロを下回ることは難しい感じ。しかし、ヤリスのすごさは燃費ではなく、ドライバーが意図した通りの挙動が引き出せることにある。
ヤリスとトヨタのとんでもない総合力
これまで、Bセグメントで何を買うかと聞かれたら、マツダ・デミオ(Mazda2)かスズキ・スイフトと答えてきたし、正直なところそれ以外は多少の差はあれど「止めておいたら?」という水準だった。しかしその中でもトヨタはどん尻を争う体たらくだったのだ。しかし、「もっといいクルマ」の掛け声の下、心を入れ替えたトヨタが本気で作ったTNGAになったヤリスは、出来のレベルが別物だ。
ヤリスの向こうに見える福祉車両新時代
還暦もそう遠くない筆者の回りでは、いまや最大関心事が親の介護だ。生活からクルマ消えた場合、高齢者はクルマのない新たな生活パターンを構築することができない。そこで活躍するのが、介護車両だ。トヨタは、ウェルキャブシリーズと名付けた介護車両のシリーズをラインアップしていた。そしてTNGA以降、介護車両へのコンバートに必要な構造要素はクルマの基礎設計に織り込まれている。
ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編)
今回のGRヤリスでも、トヨタはまた面白いことを言い出した。従来の競技車両は、市販車がまず初めにあり、それをレース用に改造して作られてきた。しかし今回のヤリスの開発は、始めにラリーで勝つためにどうするかを設定し、そこから市販車の開発が進められていったというのだ。
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