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働き手を守るはずが、「給料安すぎ問題」を助長する皮肉 過度な正社員保護は、本当に必要なのか?働き方の「今」を知る(3/3 ページ)

» 2020年07月28日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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 仮に、会社が問題社員をクビにしたとしよう。当の問題社員が「クビは不本意だ」と裁判に持ち込む場合は、「この解雇は無効である」と主張して会社と争うことになる。その結果、社員側が勝って「解雇は無効」との判決が出たすれば、その時点まで当該社員との雇用契約はずっと残っていたことになり、会社は解雇してから、解雇無効の判決が出るまでの全ての賃金を払い、しかも問題社員は会社に職場復帰(復職)することになるのだ。

 実際の裁判では最終的に金銭で和解をするケースが多いのだが、クビにされた側はいったん「会社への復職を求めるフリ」をしないと和解金額が大幅に下がってしまうため、「本音では復職する気が全くなくとも、復職を希望しないといけない」という茶番劇が必要なのだ。これではお互い、お金と時間の大いなるムダであろう。

出所:ゲッティイメージズ

 このような慣行や制度が原因で、労使ともにストレスになるような状況はすぐにでも改善したいところである。解雇や賃下げなど、一般的に「不利益変更」とされる経営判断をスムーズに実行できるように法制や規制を緩和していくことで、「正社員の権利を保護するためにリスクを織り込み過ぎ、かえって賃上げの阻害要因になっている」事態が少しでも正常になってほしいものだ。

変わる機運は高まっている

 さて、今回は前後編にわたって給料が上がらない要因を、筆者の観点から5点挙げてみた。制度面の不具合については粘り強く国に働きかけて続けるしかないが、各企業で対策を打てるものについては経営者自身が創造的な発想によって解決していくしかない。

 「給料が安い」=「従業員を安く使える」と考えて喜んでいるような経営者は、まわりまわって自分の首を絞めていることと同じである。付加価値を高め、生産性を上げ、従業員にも報いることによって日本経済にも好影響となり、結局は経営者のためにもなるということなのだ。コロナ禍を機に、「変わる機運」が高まっている今こそ、できるところから着手していきたいものである。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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