クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ダイハツ・タフトのターボが選ばれそうな理由池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2020年08月03日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

タフトの乗り味

 ドアを開けて乗り込む時、まずシートの高さが良い。この手の軽のトールボディタイプは概ねそうなのだが、乗り降りに膝に負荷がかからない高さに座面がある。

 座ると、シートの出来が良い。ダイハツのシートは背もたれが海老反り気味になるものが多く、肩がシートから浮く作りのものが多かった。近年それが是正されつつあることは感じてきたが、このタフトはそこが完全に修正された。少なくとも現時点では、ダイハツの軽自動車史上一番良い。背もたれだけではなく、座面の面圧分布でもかなり良い線を行っている。室内の広さばかりいたずらに広大にしても、人が座るシートがダメならそれは快適な空間にはならない。という意味でタフトはなかなか良い。

ダイハツの歴代モデルの中で見ても非常に出来が良いシート

 まずはターボ無しのFFから。アクセルの踏み始め、ここのフィールはダメだ。エンジンキャパシティ的にトルクが足りないものだから、エンジンもスロットルの早開きをやっているし、それに合わせてトランスミッションも回転をオーバーシュートさせてからつなぐ。

 その結果タイヤの転がり出しのところで、ガツンとショックがあり不快だ。エンジニアに聞くと、トルク不足を補って出足を稼ぐためのチューンだというが、それは気の使い方が間違っている。トルクがないものをトルクがあるように見せる手品は、他に代償が求められる。それはかなり割高なのではないか。

 先日別の記事で書いたが、醤油(しょうゆ)刺しで、風味づけのために、ほんの数滴醤油を垂らしたいだけなのに、ドバッと出てしまうような醤油差しは役に立たない。「出が悪いといけないと思って」などという気の回し方で穴をデカくしたら使いにくくてしょうがない。

 アクセルは出力の調整機構なので、必要な出力を運転者の思惑通りに調整できなくてはならない。思惑に足りないケースを恐れて小細工をした結果、微細な出力要請に応えられないようなインタフェースは強く否定しておく。ショベルカーが、ちょっと動かしたいだけなのにグワーンと動いたら悪夢でしかない。クルマだって同じだ。

 軽自動車は法規によって排気量を決められているから、当然パワーが足りない局面はある。どんなエンジニアだって、軽自動車にGT-R並の加速をといわれたら無理だと答えるだろう。過大要求の程度問題に多少の差があるだけで、同じことだ。なんで無理なものを拒否できないのか。物理限界は受容するより他にない。

 ただし、ダイハツのエンジニアが本当にそれで良いと思っているかといえば、そういうわけでもない。ターボのFFに乗ると、ちゃんと正しい醤油差しができている。こちらはトルクが足りているから変なことをする必要がない。

 NAでは実用上必要なトルクが得られないのだと判断するならば、ターボ無しモデルを止めれば良い。価格の問題はあるのだろうが、価格と出足の両立はできない。それを無理やり両立させようとするからおかしなことになる。「NAは出足は諦めてください」、もしくは「出足は大事なので全モデルターボ付きにしました」のどちらかにすべきだと思う。

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