トヨタは「モータースポーツからクルマを開発する」というコンセプトを実現するために、製造方法を変えた。ラインを流しながら組み立てることを放棄したのである。モータースポーツの世界では、勝てないクルマに意味はない。大事なのは、組み付け精度である。当然選別組み立てが行われる。
そのために、通常のプロダクトとしては当たり前に許容される「公差」を厳格化する。例えばBMWとポルシェのホワイトボディをベースに独自のコンプリートカーを作るアルピナやRUFでは、ショックアブソーバーは1本ずつ計測機に掛けられて、設計値にぴったりなものだけを選別して組む。完成車1台のために何倍ものパーツが検査ではねられる。だから高い。
トヨタでは、4本のショックアブソーバーを分別して、相性の良いセットにして車両を組む。部品はほぼ全部使うから、ワンオフ物ほどコストが跳ね上がらない。しかも組み付けはミリ単位の精度で管理される。そのためには流れ続けるラインで組み付けることはできないから、静止状態で作業ができるセル型生産システムを採用した。
工程をいくつかの階層に分け、工程の基礎単位となるセル間をAGV(無人搬送車)でつなぎ、多品種少量や高精度組み付けを実現するGRファクトリーを元町工場に新設した。組み立てを行う技能工も、当然選抜メンバーの「匠」があてられる。つまり従来のワンオフ・ハンドメイドの側から見れば高効率化であり、大量生産の側から見れば、従来の制約を超えた生産精度の劇的な向上である。これによって、トヨタは量産品のひとつ上にプレタポルテ的商品群を設定できることになる。
ランサー・エボリューションやインプレッサがもっと馬力があったとしても、それは通常公差の量産品であることから抜け出せていない。だから本気の人はそれをラリーショップに持ち込んで全部バラして組み直しをする。ここまでやればオートクチュールだ。GRヤリスは、それをほぼ、工場出荷の素の状態で実現している。もちろん本当のオートクチュールとは違うだろうが、だからこそ500万円にも満たない値段でそれが実現できる。だからバーゲンなのだ。
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