1990年代以降、日本アニメの評価は世界的に高まった。アニメ業界には大勢の実力派監督がおり、なかでも宮崎駿、高畑勲、大友克洋、押井守といった名前がしばしば国外で言及される。今 敏はこれに並ぶ1人になった。
これらの監督が世界的に注目されるのは、映画を主な表現の場としたことにある。海外ではテレビシリーズよりも映画に作家性が現れるとして、映画監督に対する批評を重視する傾向が強い。これはOVAで評価を高めた川尻善昭や、当時はテレビシリーズが活躍の中心であった庵野秀明との知名度の差にもなっている。
最初の『パーフェクトブルー』、続く2作品も映画だったことで、今 敏は映画監督だと世界的に認知された。さらに海外進出の最初の舞台がアニメーションに限定しないファンタスティック映画祭であったことも幸いした。アニメ監督である前に映画監督である事実が自然に受け入れられたことで、評価する批評家・ファンの枠組みもアニメのジャンルから1つ外に飛び出した。
2003年9月12日の『千年女優』北米公開の配給会社はドリームワークス系のゴー・フィッシュ・ピクチャーズ、04年1月16日公開『東京ゴッドファザーズ』ではソニー・ピクチャーズ系のデスティネーション・フィルムズと独立系のIDPが担った。日本アニメには珍しく大手映画会社が関わる。
『千年女優』の劇場数は6スクリーン。『東京ゴッドファザーズ』は10スクリーン。興行収入は3万7641ドルと12万9560ドルである。公開規模は決して大きくない。
しかし、日本の劇場アニメの米国公開が今とは比べものにならないぐらい難しい時代である。これが今 敏の才能を知らしめるのに大きな役割を果たす。劇場公開のメリットは、興行収入だけでない。公開に合わせ批評家が鑑賞し、一般新聞や雑誌・サイトに批評やレビューが掲載されることにある。それが作品の認知を拡散していく。アニメファン以外にリーチするこの効果はばかにできない。両作品は、海外での映画監督・今 敏の評価をより確固にした。
『千年女優』はアニメーションのアカデミー賞と呼ばれるアニー賞で、最優秀長編アニメーション賞・監督賞・脚本賞・声優賞にノミネートされた。
もちろん両作品は、国際映画祭でも次々に上映された。このなかで『千年女優』がシッチェス・カタロニア映画祭(スペイン)の最優秀アジア映画賞、ファンタジア映画祭最優秀アニメーション映画賞を受賞し、『東京ゴッドファザーズ』がフュチャー・フィルム映画祭(イタリア)最優秀作品賞などに輝く。
両作品は、なぜ海外で当時は難しかった大手映画会社の配給になったのだろう。これも当初から狙ったものではなかった。
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