「10年一昔」。アニメ監督の今 敏(こん・さとし)が、1999年に自身のエッセイの中で語った言葉だ。10年間を一区切りとして、そこで大きな変化があるという。その今 敏が、2010年8月24日に、多くの人に惜しまれ46歳で逝去してから10年目を迎える。
優れた作品や才能ですら時がたつと共に、存在の記憶は薄くなりがちだ。しかし今 敏に限っては、その評価は衰えるどころかますます勢いを増している。
国内外の歴代名作映画のランキングにたびたび作品が挙がるのもその1つ。08年の米国ニューズウィーク誌日本版が選んだ歴代映画ベスト100には『パプリカ』(2006)が、日本アニメから唯一選ばれた。2014年の英国の名門映画雑誌「トータルフィルム」による歴代アニメーション映画ベスト75に、『パーフェクト ブルー』(1997)、『千年女優』(2002)、『東京ゴッドファザーズ』(2003)と3つも今 敏作品をラインアップした。
今年になっても米国批評サイト「ロッテン・トマト」のアニメーション映画ベスト60に『千年女優』が、英国映画協会による最も優れた日本映画の06年作品に『パプリカ』が入るなど、こうした選出は数え切れない。
メディアだけでない。カナダのファンタジア国際映画祭は12年より今 敏の業績をたたえて長編アニメーション賞を”今敏賞”と命名。今年1月には国際アニメーション協会ハリウッド支部が毎年開催するアニー賞にて特別功労賞にあたるウィンザー・マッケイ賞を今 敏に与えた。
国内のメディア記事、評論・学術研究も増えている。先頃発刊された雑誌「ユリイカ」2020年8月号(青土社)では「今 敏の世界」特集が組まれ、多くの論者が今 敏について語ったのに驚かされた。
4本の長編映画は、リバイバル上映でおなじみだ。いまでも多くのファンを劇場に集める力を持つのだ。
それでも今 敏の評価は海外で高く、日本には逆輸入されている印象が強い。作品の地上波テレビ放送もないし、特集番組が作られた記憶もない。16年のGLAS国際アニメーション映画祭、今年の上海国際映画祭では今 敏の回顧特集が組まれたが、日本の映画祭はどうだろうか。筆者が出会うアメリカ、ヨーロッパ、中国……海外のアニメーション関係者の多くが尊敬する監督として今 敏の名前を挙げる。
存命なら日本を代表する映画監督だろうが、没後でさえ影響は大きくなり続けている。没後10年を期に、この今 敏の評価がいかに海外に広がったのかをあらためて振り返りたい。
今 敏の監督デビュー作は、1997年の長編『パーフェクトブルー』である。
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