クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

コロナ対策? トヨタが非対面中古車ビジネス池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2020年09月14日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

中古車販売の合理化

 しかしながら中古車ビジネスはそれなりに手間がかかる。中古なので、それなりに損耗はしているから故障リスクは必ずある。新車より安いのはそれが理由だし、新車と違って保証が付かないのが本筋だ。原理主義的には、使い減りして損耗して安い分、壊れることは織り込まれた価格なのだ。しかしながらお金を出して買ったお客にしてみれば、中古とはいえ、買ったばかりで壊れたのでは納得がいかない。そこは短期間なりとも保証を付けざるを得ないが、利幅の中で収まるかどうか分からないそのアフターサービスは売る方にも博打性がある。

 加えて、クルマはそれなりに高い買い物なので、その場で衝動買いということは起こらない。何度も商談して、ようやく客が買う気になったもののローンが通らないで全部無駄骨になることもある。新車と違って元々利幅が薄いのでそのリスクを織り込むのが難しいのだ。

 という面倒な事例を回避するのにWeb販売は都合が良い。トヨタのシステムの場合、顧客の来店は納車時の1度だけ、その間クルマを見ることはできない。代わりに掲示板で気になる部分についてオンラインサポートを求めて、写真や文章で車両の状況を確認することになっている。これはオープンな掲示板なので、他の客が質問した内容も見ることができる。これが「非対面販売」の基本的な形だ。

 中古車買取業者が、トレーダーのようにデータを駆使してメーカーを出し抜いていたのはもう過去の話になった。トヨタは傘下にオークション会社を持っている。株式に例えれば証券取引所のデータがそのままトヨタに流れ込む構図である。そのデータを分析すればまさにリアルタイムで相場を把握できる。データ化が進めば利幅は縮む。台当たりの利益が極小化される世界では、それをいかに少ないステップで、省力化して売るかの勝負になっていくのだ。そこをトヨタはどうしたのか?

問い合わせもチャット形式の掲示板で行う。やりとりはオープンだ

 顧客はトヨタ中古車オンラインストアから、クルマを選ぶ。手順は以下の通りだ。

  1. 「トヨタ中古車オンラインストア」にアクセスし、希望のクルマを選択
  2. オプション・支払い方法等を選択すると、自動で見積もり作成
  3. お客様情報をページ上に入力。注文を確定すると、承諾メールが届き、契約完了
  4. 注文承諾メールに表示される口座番号へ銀行振り込み、もしくは分割払いでお支払い
  5. 登録関連書類を郵送で受け取り、必要事項を記入・返送後、約2〜3週間で納車可能(店舗での受け取り)

 オプションでは車両の磨きや室内クリーニングなど、中古車ならではのサービスから、部品・用品の取り付けまでさまざまなものが選べる。見積もりはWeb上での自動作成で、個人情報を入力する前にチェックできるので、見積もりを作ったせいであとあと煩わしい営業を受けることなく、何台でも好きなだけ見積もりが取れる。見積もりに納得してから初めて個人情報入力に移る仕組みだ。ローンの審査もオンラインなので、対面でローン審査落ちを告知されるような辱めも受けない。

 店の側にしても、車両状態の問い合わせ以外に、無駄骨折りが発生しない。トヨタは例によって、全部の販売をこの方法にする気など毛頭ない。今までのように対面で販売を希望する客がこれを使う必要はないので、社員がWebに仕事を奪われるようなことにもならない。ただ個人の気質として、対面が苦手だったり、いろんな気遅れをしたりするような客にとって、今までなかったアプローチになるはずである。

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