もう一度、先ほど紹介した「現職の雇用形態についている理由(主な理由)」を確認してみると「正規の職員・従業員の仕事がないから」と回答した人が11.5%います。この人たちは、何らかの事情で正社員での就業を望んでいたはずです。つまり、生活のために長期安定的な収入を必要としている人たちである可能性が高いと考えられます。
比率にすると11.5%ですが、約2000万人という母数から計算すると、おおよそ230万人ほどが、正社員を希望しながら非正規社員として仕事していることになります。少なくともこれだけの数の人が、生活に不安を感じながら雇用の調整弁となるリスクを背負って働いていると言えます。
「新時代の『日本的経営』」で示された雇用ポートフォリオは確かに合理的な考え方ですが、それは雇用する企業の側から見て、経営資源としての人材をパズルのように当てはめた場合の合理性といえるのではないでしょうか。雇用ポートフォリオに当てはめるだけでは、必ずしも全ての人が幸せに働ける社会を保証することはできません。実態は、230万人以上の人が犠牲になってしまっていることを無視してはいけないはずです。
また、ポジティブな理由から非正規雇用として働いている人たちの中にも、就業条件に100%満足しているわけではない人も多数いるはずです。そもそも、雇用の調整弁として契約満了とともに仕事を失うリスクを背負っているにもかかわらず、その分が給与などの報酬に反映されていないことが多いのもアンフェアだと感じます。有期雇用である分、無期雇用の社員よりも単価が高くなるという考え方があっても良いはずです。これらの配慮が十分に行われた上で運用される雇用ポートフォリオにしていかなければ、いつまでも犠牲者を生み続けてしまう懸念があります。
だからといって、雇用ポートフォリオの考え方をなくし、現行の法制度のまま全ての働き手を正社員として雇用することを義務付けてしまうと、採用に逡巡(しゅんじゅん)してしまう企業が増えることになります。結果、非正規社員という受け皿もない中で、失業状態になる人が増えてしまうと想像できます。
これらの問題を解決するには、雇用労働システム全体を変えて行かなくてはなりません。その実現は、当然ながら容易ではありませんが、雇用労働システムをどのように変えて行けばよいのかのイメージはいくつか示すことができます。
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