この状況からの逆転の大勝負を挑む乾坤一擲(けんこんいってき)の原資を調達する手段が、外貨建社債だったわけだ。リターンに応じてリスクを取る習慣がある外貨建て社債マーケットで、80億ドル(約8400億円)と20億ユーロ(約2460億円)の手当てをしたということだろう。どうやらこれらの外貨建債は無事に売れたらしい。ということで当座の資金流動性は確保できたと見ていいだろうが、もう後がない。
万が一追加でキャッシュを用意しなければならなくなったとしても、これ以上の金利を払うのは困難だ。先ほど金利は大問題ではないとは書いたが、それは借り入れ総額との見合いだ。例えば10年もの社債の金利が4.810%ということは、借金を返すためにはそれ以上の利益率がなくてはいけない。19年の本決算の営業利益率はマイナス0.4%。18年が2.7%、17年が4.8%。直近5年で最良だった15年が6.5%と、総額1兆円ともなると、この社債を償還していくのはそれなりにイバラの道である。
一応未使用のコミットメントライン(銀行への借り入れ予約)が1.3兆円あることにはなっているが、新型車を次々出さないと復活プランが描けない日産は、開発費も販促費も例年以上に計上しなくてはならない。進軍をやめれば討死だ。
さて、今後の話だ。グローバルに見て、ひとまずコロナ騒動のピークは抜けているので、第1四半期ほどの悪材料はないだろうが、さりとて簡単に黒字転換できるとも思えない。コロナ前から赤字なのだ。そこにフェアレディZが登場したことはどういう意味を持つのだろうか?
- 完敗としか言いようがない日産の決算
ズタズタの決算内容だった日産。一つの要因は、北米で販売促進費用(インセンティブ)をつぎ込んで売り上げを伸ばそうとしたことにあるのではないか。対策として、22年にはモデルラインアップの半数を電動化車両にするというがバッテリー供給は大丈夫か。20車種の新型を出すというのも、短期間で作られる新車は大丈夫なのか?
- 強いトヨタと厳しい日産
日本の自動車メーカーは調子が良いのか悪いのか、とくにここ数年中国の景気悪化が伝えられており、その影響が心配される。全体を見て、とにかくこの逆境下で強さに圧倒されるのがトヨタで、ちょっと言葉を失う厳しさに直面しているのが日産だ。スズキとマツダは日産を見るとまだ救われるが、下を見て安心していていい状況とは思えない。概要としては各社そろって、程度の差はあれど逆境である。
- 「20モデル以上の新型車」はどこへ? どうなる日産自動車
財務指標はほぼ全滅という地獄の様相となった日産の決算。問題に対してすでに適切な手を打ってあり、今決算には間に合わなかったものの、回復を待っているというのならともかく、ただひたすらに悪い。そうした全ての状況に対して、ようやく大筋の方針が出来、これから個別の具体策策定に着手するという状況で、未来が全く見えない。念のためだが、決して未来がないといっているのではない。日産の未来は現状、皆目見当がつかないということだ。
- ゴーン国外逃亡で考える、日産前社長の西川氏が逮捕されない理由と検察の劣化(前編)
ゴーン氏の会見後も毎日のように新しい動きが報じられたが、そもそもの発端を理解している人は少ないだろう。世間では「給料をごまかして逮捕された挙句に国外逃亡したとんでもないヤツ」と認識されていると思うが、実際はそのような単純な話ではない。なぜゴーン氏が国外逃亡を選んだのか、なぜ西川氏と検察もまた問題があると断言できるのか、複雑に絡んだ事件を整理してみたい。
- トヨタの決意とその結果
残念ながらリーマンショックまでの10年間、トヨタは調子に乗っていた。毎年50万台水準で増産を続け、クルマの性能を無視してまで工数を削っていった。しかし結果、リーマンショックの時は15%の生産ダウンで、4600億円の赤字を計上した。そこからカイゼンを積み重ねたトヨタは、コロナ禍にあっても四半期で黒字を保てるほどの強靭(きょうじん)化を果たした。
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