クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

日産にZ旗を掲げた覚悟はあるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2020年09月28日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

「頑張れ!」というメッセージに添えて贈られたZ旗

 さて、日産に後がないというタイミングでZが出ることに、運命的なものを感じる。

 日露戦争で連合艦隊の戦艦三笠がマストに掲げた「Z旗」が意味するのは、「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」という意味だ。日産の歴史においても「Zの父」である片山豊氏が、もうからないと冷遇されているスポーツカー開発チームに対して「頑張れ!」というメッセージに添えて贈ったのがZ旗である。ZとはZ旗由来であり、今の日産が本当に本気で「各員一層奮励努力」するのであれば間に合うように見えるが、この資金の中で勝負を決める必要がある。

 日産の復活の狼煙(のろし)としてZには意味がある。しかし残念ながら、それは象徴的な意味でしかない。今日産にとって最も重要なのは利益率の高いクルマを台数を売ることだが、その目的に対して、Zは商品として適していない。スポーツカーはデビュー直後はパッと売れることがあるが、長期間安定して売れる商品ではない。それをして「もうからないと冷遇」されていたわけだ。

 トヨタの成功例を見ても、ヤリスクロス、C-HR、RAV4、ハリアーというSUV群は売り上げに大きな貢献を見せている。B、C、DセグメントのSUVこそが日産にとって最も必要なものであり、そういう意味ではe-POWERを搭載したSUVのKICKSに期待がかかる。そしてSUVの攻勢をさらに加速して、ヒットを飛ばさなければならない。それをこの原資でできるかどうかが問われているのだ。

 最悪の場合、日産が倒産することがあるかといえば、それはないだろう。あの規模の会社が倒産するようなことがあれば、連鎖が広がり大惨事になる。日本経済の危機である。JALやANAに何かあってもおそらく救済されるように、日産もわれわれの税金で救済されるだろう。日本国民は経済を人質に取られているに等しい。

 もちろん自力復活するのであれば私企業の問題として何ら問題はない。しかしもし税金の注入で支えられるのであれば話は違う。

 高い金利に釣られた外国人投資家たちには気の毒だが、仮に救済となったときに、社債の金利が予定通り払われたのでは、モラルハザードが過ぎる。リスクと引き換えのはずの利益が補償されるために、注入された税金が彼らの手元に渡るのでは、日本国民が納得できないだろう。

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