これまでの一般的な日本企業のサラリーマンピラミッドでは、50代が「あがりの見えたベテラン社員」で、30〜40代が「中堅」という扱いだった。しかし、ここに60代という新たな階層が上乗せされることで、彼らが「あがりの見えたベテラン社員」になって、50代が「中堅」、30〜40代が「若手」という感じで、キャリアの後ろ倒しが起こる。つまり、シニア人材の賃金を捻出するために、若手の昇進や昇給が先送りにされてしまうのだ。
ご存じのように、日本は他の先進国と比べて際立って低賃金であり、それが原因で「結婚もできない、子どもを持つなんて貧しくなるだけ」というムードを生み、少子化へのまっしぐらという状況を生んでいる。
もちろん、会社側がシニア人材をうまく活用して、さらに大きな成長を遂げていければ、こんな心配はまったくない。が、コロナ禍の中、高い給料をもらいながらもリモートワークもうまくできない「働かないおじさん」があぶり出されたように、現状でもシニア人材をうまく活用できているとは言い難い。企業で長く働いてきたベテラン社員は、管理職に収まるか、管理部門などで後進の育成や若手のサポートがメインとなって、「自分で稼ぐ」ことに縁遠くなるケースが多いからだ。
そこに加えて、シニア人材の活用にはもうひとつ高いハードルがある。それは「プライド」だ。11月8日に配信されたマネーポストの記事の中に、2年前に大手食品メーカーで定年を迎え、雇用延長した元管理職の63歳男性のぼやきが掲載されている。以下に引用させていただこう。
「定年後、5年の腰かけのつもりで雇用延長したら、若い社員がやるような給与計算をやらされたうえに、元部下の女性からあれこれと業務を指示されてストレスがたまりました。モチベーションを失い、2年ちょっとで退職しました」(マネーポスト 11月8日)
自分に置き換えてゾッとした管理職の方も多いのではないか。年功序列のサラリーマン社会に頭までどっぷり浸かって40年以上も生きてくると、人はどうしても「これだけの年齢とキャリアを積んだ自分に、若手がやるような仕事を振るんじゃねえよ」というプライドに支配されてしまうものなのだ。
それは裏を返せば、これからの企業は、60代の社員たちの膨れ上がった自尊心を傷つけることがないような「心のケア」をしながら働いてもらわないといけないのだ。
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