攻める総務

リーガルテックをフル活用して、“人間にしかできない仕事”に取り組む法務部 太陽誘電の事例「作業は機械、サービスは人」(3/5 ページ)

» 2020年11月16日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

――具体的にはどのようなリーガルテックサービスを導入されていますか。

佐々木さん: これらの業務でサービスを導入しています(下記図参照)

photo リーガルテックを活用している業務範囲

 例えば、上司・部下のコミュニケーションは「hubble」を使ってドキュメント上のやりとりで完結させて、メールは使わないようにしています。意外にメールって便利なようでコストがかかっていると思うんです。また、契約審査は「Legal Force」を使っています。精度の向上に期待していますね。書籍閲覧には「BUSINESS LAWYERS LIBRARY」も導入しています。

 契約業務を分析すると8割以上は定型契約です。作業の側面が多い契約は生産性を追求しないといけません。本当に難しい契約は5%くらいしかなくて、ちょっと難しいものを足しても10%〜20%程度なんですよ。

――リーガルテック以外にどのような仕組みを取り入れていますか。

佐々木さん: 品質と生産性をバランスさせるためには、業務基盤が絶対に必要です。私たちは主に4つの点に取り組みました。

(1)組織体制の整備(優秀な人材の採用とレポートラインの構築)

(2)契約審査・法律相談の依頼など業務フローの整備

(3)マニュアルの作成

(4)業務を支援するシステムの導入

 こういう基盤があるからこそ、品質と生産性を両立させることができます。基盤が整っていないのに、クオリティーを高めろとか、処理を速くしろ、などと話す方がいますが、それは無理な話なんです。精神論でしかないですよね。

――このような仕組みを取り入れていれば、新型コロナウイルス感染症の影響もそれほど大きく出なかったのではないでしょうか。

佐々木さん: 緊急事態宣言が出た段階で、私たちの部門は100%在宅勤務にしていました。これまでに完全在宅にしたことはなかったので、ルーティン業務を維持できるかが最も不安でしたが、契約審査も法律相談も今まで通り対応ができました。

――業務基盤が整っていれば、変化にも対応できるのですね。

佐々木さん: 業務基盤のほかに成功した要因の1つは、もともと小さいチーム編成にしていたことです。1チームあたりの人員を3人程度にしたので、リーダーがかなり細かいところまでチェックでき、コミュニケーションも円滑です。大きな案件はチームリーダーから私のところへくるようにしていました。日常的なレポートラインがうまく機能していて、在宅勤務でも維持できましたね。

 完全在宅でもうまくできたもう1つの要因は、基礎的な業務インフラである、パソコン、携帯電話、Wi-Fi、VPNを整備していたことです。レポートラインと基礎的なインフラがあれば、なんとかルーティン業務の品質が維持できることが分かりました。

テクノロジーが進化したときに問われる法務の付加価値

――テクノロジーの導入が進み、契約審査に対する人の関与が減ったとき、法務の役割はどうなると思いますか。

佐々木さん: われわれはメーカーなので、付加価値についてスマイルカーブを使って考えます。メーカーは、中間工程である組立・製造工程にはあまり付加価値がなくて、お客さんと密に接して、ビジネスをとっていく入口(上流工程)と、お客さんの課題を解決する出口(下流工程)の付加価値が高い構造です(下図 青い線)。法務の場合、逆スマイルカーブになっていて、案件の中間工程にある契約審査の付加価値がすごく高いんです(下図 グレーの線)。

photo 法務の「逆スマイルカーブ」

 契約審査業務にテクノロジーが入れば付加価値が下がるはずです。その代わりにどこの付加価値を上げていくかというと、入口と出口なんですよね。

 テクノロジーが普及したら、取引のスキームを考える入口のところに、法務がどのようにして入っていけるかが重要になるでしょう。紛争が起きそうなリスクを発見したときに、すぐに法務が入っていき、より細かなアドバイスをすることで付加価値を高めることができます。

 これまでの納期を短くすることでも付加価値を出すことはできますね。テクノロジーが進化すれば、非常に多くの物事を処理できるようになっていくでしょう。

 とはいえ、どんなにテクノロジーが進化しても人の仕事、サービスは残ります。作業は機械、サービスは人。こういう時代が絶対に来ます。

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