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生き残りをかけたANA「400人出向」 左遷でなく“将来有望”のチャンス?河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(5/5 ページ)

» 2020年11月13日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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他社出向をポジティブな生き残り策に

 すでにANAホールディングスの社員出向の受け入れ先として、KDDI、ノジマ、パソナ、成城石井、三重県、佐賀県、沖縄県浦添市などが報じられていますが、出向することになったANAの社員たちが強い自己をもって挑めば、「このままうちの会社にいてほしい」と惜しまれる人材になることでしょう。

 ANAに帰った後は、「武者修行」を終えて一皮も二皮もむけた戦力として重宝がられるはず。ひょっとすると、「もっと成長したい」と転職を目指すことになるかもしれません。

 いずれにせよ、今回のANAの取り組みは「帰れる場所がある」=「職務保証」という心理的契約に基づく出向なので、「現在窮乏将来有望」の精神で頑張ってほしいし、他社も同様の取り組みをすれば、新しいカタチの「雇用の流動化」も期待できます。

 現在窮乏将来有望――。これは、ANAの初代社長の美土路昌一氏の言葉です。ANAの2レターコードが「NH」なのは(日本航空はJL)、ANAの前身である日本ヘリコプター輸送(日ペリ)に由来しています。同社は、美土路氏が国内初の民間航空会社として設立しました。

 日本のナショナルフラッグキャリアはJALでしたから、ANAには厳しい時代があった。それでも「現在窮乏将来有望」を信じて険しい道のりを乗り越えてきたと、私は新人の頃、先輩CAから何度も聞かされました。

 コロナ禍では多くの企業が厳しい状況におかれています。ANAだけでなく、他の企業でも「アフターコロナ」で成長するために、他社出向をポジティブな生き残り策として受け止め、取り組んでほしいです。

【訂正:2020年11月14日 一部の用語を訂正しました。】

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)


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