社員が新型コロナ感染でも慌てない! 労務対応チェックリスト、初動から対外的発表まで(2/5 ページ)

» 2020年11月13日 07時00分 公開
[BUSINESS LAWYERS]

3-2.感染した従業員および感染の疑いのある従業員の休業中の賃金

 従業員に新型コロナウイルスの陽性反応が出た場合は、都道府県知事が行う就業制限による休業であるため、企業には賃金の支払い義務はありません。

 なお、新型コロナウイルスへの感染が業務または通勤に起因して発症したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象となり得ます。例えば、院内感染により医療従事者が新型コロナウイルスに感染している事例など、感染ルートがはっきりしたものについては、業務上災害と判断される可能性もあります。

 また、業務に関連したものではない場合であっても、要件を満たせば、各保険者から傷病手当金が支給されることになります。具体的には、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均の標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償されます。

 正式に陽性が判明する前の段階であっても、37.5℃以上の熱が連続して出ている、高熱が出ている、味覚を感じない、倦怠感があるなど、新型コロナウイルスに感染していることが疑われる症状が出ている場合には、普段通りに仕事をできる健康状態にないため、従業員側で有給休暇や病気休暇を取得して休むケースが多いでしょう。しかし、従業員がこれらの休暇をとらない場合には、企業側から自宅待機を指示すべきです。この場合、仕事をできる健康状態にはないため、企業は賃金を支払う義務はないと考えます。

 なお、従業員の休業・自宅待機中の賃金の取扱いについては、後編「従業員本人や家族の新型コロナ感染疑い 企業が検討・実施すべきポイント 賃金・補償・予防を中心に」で詳しく解説します。

3-3.今後の流れや社内での対応方法を説明し、理解を得ておく

 新型コロナウイルスに感染した従業員が、今後のことや周りの従業員のことなどで不安を感じることなく療養に専念できるよう、企業は、当該従業員に対して療養に専念することを伝えるとともに、今後の流れや社内での対応方法を説明して理解を得ておきましょう。

 具体的には、以下の点について理解を得ておきます。

  • 従業員の行動の確認調査(実際には陽性反応が出る前の時点で行うことが多いです)を行うこと
  • 社内施設の消毒を行うこと
  • 感染予防措置の徹底のために社内で周知を行うこと
  • 必要に応じて対外的な公表を行う可能性があること
  • 個人情報の利用に関する同意を得ること

 新型コロナウイルスに感染したという情報も、本人の病歴に関する情報であり、要配慮個人情報に該当すると考えられます。従って、その情報を必要性もなく安易に開示することは避けるべきです。

 また、下記のような同意書を得ておくことを検討しましょう。個人情報保護法では、本人の同意が得られない場合であっても、人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合や公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合などでは、例外的に個人情報の取扱いを認める場合もありますが(個人情報保護法16条3項2、3号)、トラブルを避けるために本人の同意を得ておくことが望ましいです。

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3-4.感染した従業員への行動調査の依頼

 社内での濃厚接触者を特定するために、また感染経路を確認するために、当該従業員の体調に配慮しつつ行動確認を行います。可能であれば、発症14日前からの行動を思い出してもらいたいところですが、なかなか詳細に覚えていない場合も多いでしょう。しかし、最低でも症状が出始めた日およびその直近2日間については細かく思い出してもらうよう依頼します。電話や対面での確認は従業員本人にとって負担が重く、また感染拡大につながる可能性もあるため(電話での簡単な聞き取りを求めることはよいと考えます)、なるべくメールでの報告を求めるのが望ましいと考えます。

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