役割等級制度の導入に伴い、管理職以上のポジションについては、会社からの期待役割の内容が「ジョブカタログ」として全社員に公開されるようになった。それぞれのポジションに求められるグレード、部下の人数、キャリアトラック上の区分、勤務地などの基本情報から、ミッションや役割責任、必要なスキルが明記されている。
「ジョブカタログは全社員に公開されていますので、とくに管理職にとっては非常に緊張感があるようですが、基準がはっきりしたことで評価の調整やサポートがしやすくなりました」と小川さんは言う。
このジョブカタログはジョブポスティング制度にも活用される。同社では10年以上前からジョブポスティング制度があるが、空きポジションに対しての応募を受け付けるものだった。これを、現在空いていないポジションにも手をあげられるようにした。「候補者プールシステム」アプリで自分の現在のグレードや希望する領域などを設定して検索・応募することができる。この時上長に自分が応募したことを知らせるかどうかも選択が可能だ。
応募があればすぐに異動を検討するのではなく、まず人事部でヒアリングを行う。そこで動機やスキルなどを詳しく聞き取る。ジョブポスティング制度ではより高いポジションを目指すだけでなく、グレードを下げてもよい。
「やはり長く働いてほしいですから、自分がいま家庭を大事にしたいならグレードを下げたり、より仕事に重点を置けるようになったら再び上のグレードを目指すことができます。
自分のライフサイクルや「大切なもの」を守るために柔軟にキャリア設計ができるようになっている。
評価についても、点数をただつけるだけではなく、その理由について対話を促す「New PM approach」を導入した。「上司からの評価に納得しない部下も一定数います。それ自体は仕方がないことですが、フェアであるためには、なぜその評価になったのか理由を示す必要があります」と小川さんは説明する。それができていない場合、上司としての役割の評価に影響することもある。個人が1人で達成できる業績には限りがある。上司として部下の育成は必要不可欠という考えから、部下育成に時間を使うように人事施策として促した。
人事制度やオフィス以外にも、スーパーフレックスを一部部署から拡大し、営業を含めて全社員を対象とする。社内・社外の兼業副業プログラムも検討している。このように、働く時間や場所は自由になっていくが、その分キャリアデザインを個人で主体的に行っていく必要がある。
小川さんも、「社員の「大切なもの」を守ることができるよう、時間や人事制度はより柔軟に、会社は選択肢を用意しています。そしてそれらの制度を用いて各自でキャリアを設計していってほしいと考えています」と話す。
実は小川さん自身も実際にそれを実践している一人だ。弁護士資格を持ち、入社時は法務部門に在籍していたが、ジョブポスティング制度で手を上げて人事に異動したそうだ。
全員が納得する人事制度はない。それなら、自分たちで設計できる人事システムを作ろうという考えがエヌエヌ生命の新人事制度にはあらわれている。個々人のオーナーシップを支援する人事制度の好例といえるだろう。
(8月27日 取材)
●社名:エヌエヌ生命保険株式会社
●設立:1985年1月
●資本金:324億円
●事業内容:生命保険業
●従業員数:880人(2020年3月現在)
●所在地:東京都渋谷区渋谷2-24-12 渋谷スクランブルスクエア 44階
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