実は中国のIT事業の多くは現時点で、独禁法の網から漏れている。法が施行された08年、アリババやテンセントなどIT企業は今ほどの市場支配力を有していなかったため、独禁法はインターネットビジネス分野をカバーしなかったのだ。
だが、AIとビッグデータの時代に突入し、経済活動のプラットフォーム依存は強まる一方だ。フェイスブックは国境を越えてやりとりできるデジタル通貨「リブラ」構想で国家の金融政策すら脅かし、10億ユーザーを抱えるアリババの金融子会社アント・グループは、既存銀行の経営を圧迫している。
ITとつながる多くのサービスが、アリババ系とテンセント系に寡占されている。写真はシェア自転車で、青がアリババ系、オレンジがテンセント系の元モバイク、現在の美団(19年杭州にて、筆者撮影)
プラットフォーマー同士の競争が激しくなり、優越的地位を利用し取引先や消費者をグレーな手法で囲い込む行為も後を絶たない。
その代表的な行為が、取引先に自社のみとの取引を迫る「二者択一」だ。
例えば、テンセント傘下の美団(Meituan)とアリババ傘下の餓了麼(Ele.me)がシェアを奪い合うフードデリバリー業界。今年7月、浙江省温州市の飲食店20店舗は、餓了麼が独占取引契約を強要し、他のプラットフォームとの取引を禁じたと現地の市場監督管理局に訴えた。また広東省広州市の飲食業界団体は今年4月、美団に手数料の引き下げを申し入れた。業界団体によると、美団のフードデリバリープラットフォームの当時の利用手数料は26%にも上っていたという。
餓了麼(Ele.me)のデリバリーの様子(17年、筆者撮影)
フードデリバリーは、コロナ禍の営業を制限された外食業界にとって命綱となったが、同時に、制裁与奪の権限も握られ、圧力をかけられることが増えた。
消費者も、知らないうちにプラットフォーマーに操られている。中国のECサイトは人工知能(AI)とビッグデータを利用して、同じ商品の価格を消費者ごとに変えることもできる。より安い価格を提示し新規顧客を獲得するためのやり方には、消費者からは常に不満が出ている。
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