「6年前のM&A」でアリババに罰金、企業分割もちらつかせる中国当局の真意浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/4 ページ)

» 2020年12月17日 17時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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政府の共通の敵になったメガIT

 中国経済の著しい変化を受け、中国当局は20年1月、インターネットやデータを取り扱う事業も独禁法の対象とすべく、法改正に着手した。

 パブリックコメントを募るため、「プラットフォーマーに対する反独占ガイドライン」の草案が公表されたのは、中国最大のネットセール「独身の日」真っただ中の11月10日だ。史上最大のIPOになるはずだったアント・グループの上場延期が決まった直後でもあり、「中国当局がメガIT企業への締め付けに転換した」と波紋を呼んだ。

20年11月12日0時に行われた、独身の日の売上高発表

 12月14日に公表されたアリババなど3社に対する独禁法違反の行政処分は、同社の事業内容そのものではなく、既存の独禁法のルールが根拠となっている。現在策定中の「プラットフォーマーに対する反独占ガイドライン」は、ゲーム事業で稼いでいるテンセントには影響が少ないといわれていたが、市場監督管理総局は14日、テンセントが出資するゲーム動画の配信会社の経営統合についても調査を進めていると公表し、法を駆使して監視を強める姿勢を鮮明にした。

 中国財政部の朱光耀元副部長は翌15日、中国インターネット金融フォーラムに登壇した際、「メガデジタルプラットフォームをいかに適切に監督していくかは、世界共通の課題となっている」と語った。朱氏はさらに「大きすぎて潰せない点は、銀行とメガIT企業はよく似ている」と話し、企業分割を盛り込んだEUのデジタル規制法案に言及した。欧州連合(EU)は15日、GAFAの影響力を抑制するため、年間売上高の最大10%の罰金や企業分割などの制裁を盛り込んだデジタル規制法案を公表した。

 中国政府は企業の国際競争力をつけるため、これまでは国有企業の合併を推進してきた。高速鉄道の輸出のために、中国北車と中国南車を「中国中車」に再編したのもその一例だ。肥大化するIT企業は、中国の競争力を高めるだけではなく、中国政府のコントロール権をそぐ「諸刃の剣」にもなると、中国政府も考え始めている。国の統治形式は違っても、メガIT企業は米国、EU、中国の共通の敵になりつつある。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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