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ロボアド初の上場 潜在市場は16兆円超 ウェルスナビ柴山CEO単独インタビュー(2/4 ページ)

» 2020年12月22日 09時15分 公開
[斎藤健二ITmedia]

潜在市場規模は16兆〜23兆円 日本のほうがポテンシャルが大きい

――WealthNaviの預かり資産は3200億円を突破してきたが、国内ロボアド市場の今後の見通しについてはどうか。

 日本では、働く世代の長期的な資産運用という、これまでなかったニーズが生まれてくる。背景には、日本社会の構造変化がある。終身雇用の終焉(しゅうえん)、少子高齢化によって年金不安が高まる中で、働きながら豊かな老後に向けて資産運用していくという、これまで日本にはなかったニーズだ。

 これまで老後に向けた最大の備えは、定年まで勤めることだった。そうすれば退職金と年金がもらえる。国と会社が老後の面倒を見てくれる。そういうモデルが長く続いてきた。

 しかし終身雇用を前提とするモデルが崩れ、新しいニーズが生まれている。しかしそのニーズは徐々に顕在化していく。タイムラグがある。このタイムラグによって起きたのが、去年の老後2000万円問題だ。社会構造の変化より、社会における認識の広がりのほうが遅いからだ。

 新しいニーズが徐々に顕在化するなかで、ロボアドバイザーのような忙しく働く世代の人たちが隙間時間でスマホで完結して行える資産運用の方法が伸びていく。

 ロボアドは大きく成長していくが、米国のロボアドバイザーと比較するのは適当ではない。米国では終身雇用がなく、働きながら資産運用するのが当たり前だ。401kのようなそれを支える国の制度もあった。

 日本のように投資をしたい人だけがするのではなく、米国ではだれもが資産運用をするのが当たり前。そして多くの人は、アドバイザーに資産運用を任せるのが当たり前になっている。ただし、プライベートバンクは数億円の資産を預けないと口座開設ができない。またRIAといわれる独立フィナンシャル・アドバイザーにお願いするには2000万円程度が必要になる。金額が少なくても、おまかせで資産運用できるのが米国におけるロボアドバイザーだった。

 日本では対面のアドバイス自体が浸透していなかった。ニーズがなかったからだ。米国の対面アドバイザーが30年かけてやろうとしてきたことを、日本ではロボアドバイザーが代わりにやろうとしている。また、対面とロボアドバイザーを組み合わせたハイブリッドサービスをやろうとしている。

 米国と日本では全く異なる社会的課題を解決しようとしている。米国のロボアドバイザーよりも、むしろ日本のほうがポテンシャルは大きいのではないか。預かり資産1兆円が次のマイルストーンだ。

――米国で先行してきたロボアドサービスだが、日本市場のユニークなところ、またそれに対応するために取り組むことは何か。

 日本ならではのチャンスと課題がある。チャンスは、資産運用をすることが当たり前になっていないので、まだ金融資産の52%が預金に集中していることだ。これまでなかったニーズが顕在化していく中で、日本では知見やノウハウが存在していない。そういう課題が、働く世代の投資家、金融機関の両方にあった。

 極めて大きな潜在市場がある。今後10年間で、米国や英国と同じくらいまで貯蓄から投資に行くのは難しいだろうが、日本と同じような堅実な国民性を持つドイツ並み(40%)になったらどうか。12%が預金から投資に動くことになる。

 (日本の個人金融資産である)1900兆円の3分の1を働く世代が保有していて、そのうち12%が預貯金から投資に移る。そのうち2〜3割くらいが長期分散投資に向かうと考えると、16兆〜23兆円という極めて大きな市場規模がある。

 政府や大手金融機関、我々のようなテクノロジースタートアップの協力関係が重要だ。WealthNaviでは約半分が提携パートナー経由でのサービスになっている。2017年のSBI証券、住信SBIネット銀行、ANA、ソニー銀行から始まり、直近では三菱UFJ銀行とも提携サービスを開始した。我々は大きな社会的な課題を解こうとしている。それは非常に難しいので、大手金融機関と協力していく。

 課題は、過去あまりにも長い期間、働きながらの資産運用が必要がなかった時代が続いてきたことだ。一朝一夕に、貯蓄から投資にシフトするわけではない。潜在市場は大きいが、変化には時間がかかる。

 米国であれば、長期投資、分散投資は当たり前。ロボアドバイザーであれば安い手数料をウリにすれば顧客が来てくれる。日本はそういう状況ではまったくない。投資の最初の一歩を進むことが難しい。時間とコストがかかる。

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