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もはや時代遅れ? 今こそ日本企業は“コミュ力”信仰から脱却すべきワケリスクも多い、“コミュ力”採用(4/4 ページ)

» 2020年12月23日 05時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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(3)組織の硬直化

 コミュニケーションがスムーズな組織というのはチームワークが良く、得てして生産性が高いものです。一度決められた方針に沿って、皆で協力し合いながら愚直に取り組むときなどに、大いに強みを発揮します。しかしながら、今の手法が1カ月後、半年後、1年後、同じように機能する保証などありません。

 常に現状へ安住せず、改善し、いざというときには大胆な変革も受け入れる。そんな組織であるためには、多様な視点や意見のぶつかり合いも時には必要です。健全なぶつかり合いも、本来は大切なコミュニケーションであるはずです。

 しかし、あつれきが生まれないスムーズな意思伝達ばかり社員に求めてしまうようだと、互いに遠慮し合い、当たり障りのないコミュニケーションしかできない組織になってしまいます。結果、組織は硬直化してしまい、柔軟な変化が難しくなります。そして、いつの間にか社会の変化についていけなくなり、取り残されてしまうことになるでしょう。

“コミュ力”信仰、今こそメスを

 冒頭でも触れた前回記事『上から目線? 経団連が発表した「教育界への提言」が、経済界へのブーメランなワケ』では、経済界から教育界に向けて出された提言内容を5つに整理して紹介しました。

(1)キャリア教育(2)STEAM教育(3)情報教育(4)グローバル教育(5)ダイバーシティ&インクルージョン教育―――これら経済界が求める教育を受けて育成された「理想的人材5.0」が社会に出たときのために、経済界は活躍できる土壌を作っておかなければなりません。

 しかし、コミュニケーション能力を過度に重視し、ゆがんだ形で作用してしまうような企業だと、「理想的人材5.0」は組織の中で浮いた存在となってしまうはずです。また、コミュニケーション能力以外にも、人材要件として重視しなければならないポイントはたくさんあります。

 コミュニケーション能力が不要な能力だとは決して思いません。企業の生産性向上が求められる中で、職場で「卒なく意思疎通ができる」ことは必要不可欠かつ大切な能力です。しかし、とかく印象に左右されがちな、コミュニケーション能力の高さをどこまで重視して評価するかは、業種や職種の特性などに鑑みて適切に判断する必要があります。

 これまで合理的だったことが、これから先もずっと合理的だとは限りません。長年にわたって日本企業の中に根付いてきた“コミュ力”信仰にメスを入れなければならない時代は、既に訪れているのだと思います。

著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)

1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業。テンプスタッフ株式会社(当時)、業界専門誌『月刊人材ビジネス』などを経て2010年株式会社ビースタイル入社 。2011年より現職 (2020年からビースタイル ホールディングス) 。複数社に渡って、事業現場から管理部門までを統括。しゅふJOB総研では、のべ3万人以上の“働く主婦層”の声を調査・分析。 『ヒトラボ』『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰。NHK『あさイチ』など、メディア出演・コメント多数。 厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。 男女の双子を含む4児の父。


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