「終電繰り上げ」は再成長の準備 2021年の鉄道ビジネス、“前向きなチャレンジ”が闇を照らす杉山淳一の「週刊鉄道経済」新春特別編(3/5 ページ)

» 2021年01月02日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

堅調なSIT(Special Interest Tour)が景気回復のカギに

 医療関係者や自治体が旅行を控えろ、という一方で、民間企業では旅に出よう、経済を回そう、という動きがある。旅行する側としては矛盾しているように感じる。しかし、それぞれの立場は矛盾していない。どちらを支持するか、あとは自分で判断しなさい、ということだ。国が休日を定めないと会社を休めない、というタイプの人は戸惑うだろう。「自分で決める」という習慣を根付かせる良い機会かもしれない。

 鉄道に関していえば、COVID-19の対策として「3密」については回避できている。車両の換気は十分で、新幹線・特急の指定席を予約する場合は、利用者は画面に表示されたシートマップで空いている場所を選べるし、それができないシステムはいずれ改修されるだろう。座席選択できない場合も配慮されているようだ。私は昨年12月に東海道新幹線を4往復し、うち2往復は座席を指定できないツアー商品を予約した。どれも隣の席は空いていた。担当者の気配りがあったと思う。

 東海道新幹線では、アナウンスで車内換気の説明と、飲食以外のマスク着用、座席を回転して向かい合わせで利用しないよう呼びかけられていた。私の席の通路を隔てた隣のグループが座席を回転させていたけれども、いつの間にか戻していた。車掌の助言があったようだ。

 20年に低調だった旅行業界でも、「SITは堅調だった」という声がある。SITは「Special Interest Tour」の略で、博物館めぐり、史跡めぐりなど、趣味性の高い団体旅行だ。鉄道で言えば「SL列車に乗ろう」「観光列車に乗ろう」というツアーである。旅行会社は自主的に感染予防施策をとっており、参加者に健康申告書の提出や体温測定を義務付け、列車やバスでは1人分2席利用などの配慮がある。観光施設も入場制限しており、ツアーで申し込みを受ければ人数を把握できる。今後は感染対策で休館している施設も、対策を取った少人数のツアーなら受け入れる、となるだろう。

20年12月に催行された「鶴見線貸切夜景ツアー」の座席。ソーシャルディスタンスに配慮して、白札部分が指定席となっている

 旅行会社にとって、20年は企業の研修旅行、慰安旅行のキャンセルが痛手だった。それを補う意味もあり、企業向け旅行担当者はSITの開発、催行に努力していたという。そもそも旅行に関していえば、長距離の移動と宿泊が特殊なだけで、現地での観光、買い物、飲食は日常生活と変わらない。COVID-19対策の要点を押さえやすい。

 安心できる旅行商品は、景気の維持回復にとって大きな役割を果たせる。定員が少なくコストが上がってしまうけれども、それを感じさせない付加価値があれば集客できる。交通事業者と旅行会社の連携が重要だ。

 人間は衣食住を満たせば身体を維持できる。しかし、遊ばなければ精神(こころ)を維持できない。21年に必要なビジネスは「安全な遊び」の提供だ。そこに鉄道の商機もある。

20年12月に開催された「サロンカーなにわ」のツアー。団体専用車両で、横三列シート。向きは自在に変更できる

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