本記事は、BUSINESS LAWYERS「「不正をするな」から「正しいことをしよう」へ 従業員マインドを変えるエモーショナルコンプライアンスの基礎(後編)」(増田英次弁護士/2020年12月16日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
ビジネスを取り巻く環境がかつてない速度と規模で変化を続ける中、いかにして企業は、従業員のコンプライアンス意識を醸成し、自社の競争力を高めていくべきでしょうか。本稿では、企業コンプライアンスに詳しい増田英次弁護士が、絶えず不祥事を繰り返してきた旧来型の管理支配型アプローチの問題点にメスを入れ、自律的発展成長型のアプローチである「エモーショナルコンプライアンス」への変換がもたらす従業員のマインドの変化と企業が享受する効果について2回にわたって解説します。
後編では、従来型のコンプライアンスといえる「不正をするな! パラダイム」に欠けている5つの視点と、エモーショナルコンプライアンスの考え方を概説していきます。
エモーショナルコンプライアンスでは、法的知識の習得ではなく、むしろ法を活用する人間そのものに注目して、誇りある行動や正しいことを自らが主体的に行っていけるマインドの醸成に重きを置いています。
その際に、「大切にすべき」点について、図も参考にしながら、その代表的な項目をあげてみたいと思います。
ビジネスの世界でビジョンやミッションを大切にすることは、よく言われることです。でも、その必要性は、等しくコンプライアンスにも妥当します。
この会社はどこへ行こうとしているのか、どうしたら社会に貢献しつつ、利益も上げていけるのか、自分はこの会社で何をしたいのか、それを達成するためにどういう行動をとり、また、何をしてはいけないか?
未来のありたい姿=ゴールがあって、初めて「今」が動き、そして、「今の行動」が変わるのです。正しいことをただやれ! といわれても、一度や二度はできるかもしれませんが、決して長続きはしません。むしろ、未来のありたい姿から逆算して、中長期、そして今を考えていくことが、いろいろな悪魔の囁きに簡単になびくことなく、倫理も利益も達成する上で極めて重要なのです。
ゴールと正しいことをするには、強い相関関係がある。そういう意味で、「ゴールなくしてコンプライアスなし」と言っても過言ではありません。
現状維持と思考停止をしている組織は、創造性(クリエイティビティ)に欠けることはもちろんですが、そもそも、組織自体が後ろ向き、暗い、陰湿、無気力、無責任、無関心、責任回避という、極めてネガティブな環境にあることが少なくありません。こういう組織では、必ずと言って良いほど、セクハラ・パワハラが横行し、また、不正があっても隠蔽が続くなど、組織の在り方に大きな問題を抱えています。いわゆるアンハッピーな状況です。こういう環境では、正しいことをすること自体が疎まれたり、ばかにされたり、軽んじられたりするのです。
では、エモコンが発揮できる環境はなにか?
それは、「ハッピーな組織環境」であることです。ここでいう、「ハッピー」とは、幸せというよりは、一人一人が与えられた役割に意味を感じ、やりがいを覚え、夢中になって取り組む。そういうことを言います。
ハッピーな環境と正反対なアンハッピーな環境がいかに正しいことをすることを阻害し、誇りある行動を取るにふさわしくないかを考えれば、ハッピーな環境を創ることがどれだけ重要かは理解できるでしょう。
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